「烏」-4終わり
そんな日々を幸せに暮らしていたのだが、「カッコ」の悪戯は徐々に近所に迷惑をかけ、
悪い評判ばかりが広まった。布団を干していたら、布地に穴を開けて、
中の綿を引っ張り出した。
表に干していた洗濯物を外して下に投げ落とした。小学生を追いかけ回した。
そんな事が日常になっていたのだ。
山の畑で行方不明になり、居なくなっても仕方ない、なんて半ば諦めて帰宅すると、何のことは無い、
先に帰宅していて「ガー」なんて出迎えた。
「カッコ」との暮らしは一年半以上も続き、冬の屋根の雪下ろしにも付き合ってくれ、
退屈で辛い仕事の中の気休めとなってくれたりした。
何しろ屋根に舞い上がるなんてお手の物そのものだったのですから。
知恵が付くと言うか、他の取りの鳴き声を真似するような習性があるのか、
とうとう自分の名前さえ覚え、不器用では有ったが、
「カッコ、カッコ」なんて鳴いてみせさえしたのだった。
ある日学校から帰るといつもの「カッコ」の出迎えがなかった。父と母は悄然としていた。
やがて私に正直な話をした。二人で泣く泣く始末をしたと言うのだ。
線香と蝋燭を背負わせ水葬にしたと言う。私も泣いたが、エスカレートする一方の悪戯に、
そんな方法しか結論が無かった事と、理解するしかなかった。
寡黙な父はそれから時々言った。「仕事が落ち着き楽隠居の身になったら、
山の畑に小屋を作りカラスと一緒に暮らす」。動物好きな父は本当に「カッコ」を愛していたのだ。
昨年亡くなった父は、きっと母と「カッコ」との再開を喜んでいるに違いない。
カッコだって、可愛がってくれていた父を恨んでいるはずは無い。
父母の周りを飛び回る姿は羽も揃い、もう傾いてなんていないだろう。
(終わり)