50年前の尾瀬紀行(9)
四日目の予定は、尾瀬ヶ原の湿原を午前中見て、午後は燧岳に登山、植物の標高分布や尾瀬の概観をして、長蔵小屋泊まりということであった。幸いに初日から四日間、天候に恵まれて快適の毎日を続け、一行の人達とも懇親を重ね実に愉快である。
朝早く温泉を出発、愈々尾瀬ヶ原、中田代の湿原巡りということで歩き始めた。面積は一寸解りかねるが、三十平方粁位はあるか、沼尻川から至仙山の麓迄、雨の日や霧の日は全貌を見ることが出来ない。私共は中田代の一部を回ることにした。
リーダーの佐藤村長は、植物の知識は広く且つ深い。尾瀬の湿原地帯に群生する珍しい植物の殆どは解明することが出来、私共に説明してくれた。湿原歩きは徒歩では無理で、二、三寸から四、五寸は足が埋まるので、当時から此の湿原には山毛欅の幹を二つ割にした歩行桁が敷かれていた。今日のように完備したものではないが、自然保護に役立つ効果は大きい。
人影は全く無く、半日歩き回った原では二人連れの登山者に会っただけであった。尾瀬の水芭蕉は花が大きい。鮮やかな彩が四囲の景色とよく映えて、日本中何れの地にある水芭蕉より美しいと言われている。
(続く)