50年前の尾瀬紀行(10)
中田代に入ると、数知れぬ池塘や、小川の辺に大葉の毛せん苔や太さ指程のトクサが一米余に伸びて、平地には見れない珍しいものだ。原一面に日光キスゲが真っ盛り、遅れているあやめの花もきれいだ。チングルマ草など、珍しい草花は数えきれない。当時でもこれ等の高山植物の保護に相当力を入れ、監視員が時折巡視して盗む者が見つかれば注意し、悪質の者は処罰していた。このようにしてねこの自然保護が今日に引き継がれているので、何と言っても日本で著名の高山植物の宝庫というのも過言ではない。
私は尾瀬が好きだ。静かで美しい自然が殆ど損なわれていない。広々とした湿原に数知れない池塘や四周の山々、尾瀬沼、沼尻川、白樺、ダテカンバの林、楢の古木等、之等が自然の中に尾瀬の中に創り出している。景観は概ね女性的で飽かぬ眺めは、五十年後の今日でも私の脳裏にはっきりと映って離れない。倅や孫達が尾瀬から帰ってくると、又しても話し出して楽しんでいる。
(続く)