凝っていると言えば 凝っている
扱われているのは皿屋敷
怪談ばかりか落語にでも出て来るお菊さんの話だ
私はこの話を幼い頃 母に教えられた
姫路城にもお菊の井戸はあるし 市内にはお菊神社もある
似たような話は全国にあるらしい
番町皿屋敷ー幾度もドラマ化もされている
そう私が母から聞かされた話はー
お菊と言う女中が家宝の皿を割ったことを責められ 斬り殺されて井戸に死体を捨てられた
やがて夜になると井戸から お菊さん・・・腰元姿のずぶ濡れの女の幽霊が殺された時そのままの姿で出てきて 世にも哀しそうな声で一枚二枚三枚と皿を数えていく
幾度繰り返し数えても 割った皿の数は足りない
声は繰り返すごと泣き声が混じる
啜り泣きが入る
七枚八枚九枚 九枚 きゅ・・・う・・・ま・・・いぃ・・・
一枚足りない いちまい・・・たりな・・・い・・・
割ってしまった十枚目の皿はたとえ死のうとも数えられぬ
毎夜 幽霊は足りない皿を数える
終わらない
終わらないから お菊の祟りは終わらない
矛盾がある
自分が割ったのなら数は足りなくて当たり前
それなのに死んでまで 自分が割った無くて当たり前の皿の数を数えるとは もしやお菊さんは馬鹿なのだろうか
いやいやと 実はお菊は密偵で播磨を探りある証拠を見つけようとして正体がばれ責め殺されたのだよと
いやいや実は播磨とお菊は恋仲であったのだ
播磨に縁談持ち上がり
お菊は男の気持ちを家宝の皿を割ることで試そうとして
その心の浅はかさが 播磨の怒りをかったのだと
また色好みの殿様が 最初からひびの入った皿を菊に運ばせ それは家宝の皿
その罪赦して欲しくば 儂の言うことを聞けと迫ったとか
話の種類は色々ある
なぶり殺し
斬殺される
自害する
死に方はどうでも お菊の死体は井戸の中に入り沈み
やがて井戸から幽霊となって現れ 皿の数を繰り返し数え 屋敷の者達に祟るのだ
その話を 京極夏彦氏が 常連の小股潜りの又市 幻術の徳次郎を配して組み立て直した
一度壊し ばらばらにし 皿 お菊 播磨 井戸
要素を入れ撹拌し 取り出してみせる
その物語は 父が死に屋敷の主人となった播磨に おばが勧める縁談相手が押しかけてくる
事情あって播磨の屋敷で働く菊に 播磨の縁談相手の娘は 悪感情を抱く
そして播磨と家宝の皿を求めた
播磨と同じ道場でもある主膳は 播磨の縁談相手・吉羅を凌辱する
播磨を慕う仙は 主膳に抱かれながら 平然と屋敷に居座る吉羅が許せない
お菊の幼なじみに お菊の育ての母
播磨の父のしていたこと
主人に褒められたい側用人
諸々の因縁がじわじわと絡み ぐるぐるととぐろを巻き 捻れに捩れ ばん!と弾ける
人は狂う
見失う
望んで壊れるか
正気が消えないから哀しいのか
この物語でも 菊の死んだ体は井戸へ消える
この物語で青山播磨は悪い人間ではない
悪人ではないのだ
馬鹿でもない
ただ 私のようながさつな人間は
ええい このスカタン お前がしっかりせんかい!と蹴飛ばしてやりたくなる
しかし それでは物語にならないのだ
書きも書いたり
よくぞ書ききったものだと思う