ー初めて見た時の君は何の愁いなく輝いていた
その輝きに僕は魅せられた
ひと目で恋に落ちていた
自分が何者であるかも忘れ ごく普通の若者のように
僕は ただ恋に落ちていたんだー
シャンデ将軍と別れてから少し一人になろうと城の外に出たベルナーは いつかロズモンドと初めて会った川辺にたどり着き知らぬ間に歌っていた
ーこの忙しい時に何をやっているんだ 戻らねば 城にー
踵を返したベルナーは・・・ロズモンドの姿を認めた
特徴ある緑を帯びた栗色の髪は太い一本の三つ編みにして肩に垂らし 城にいる時よりは少し短めの動きやすい服を着て 覆いをかけた篭を両手に抱えていた
ほぼ同時にロズモンドもベルナーを見つける
知らぬ顔をして素通りできる距離ではなかった
ベルナーは 初めて会った時より痩せて愁いを帯びてはっとするような美しさを湛えるようになったロズモンドを暫く見つめた
「その篭は」
「祖母から城の皆さんへのおみやげです -暇つぶしに作ったお菓子なのだとかー
長い事 顔を見せないと心配するから会いに行っていました」
以前の屈託ない笑顔でなく口許だけの笑み
声の響きも少し暗いロズモンド
ーもう あのくだけた物言いは 言葉遣いを聞くことはできないのか
そうだ この俺のせいだ
もとはといえば俺が作った壁だ
あの明るさを壊して 奪ってしまったのかー
「アクシナティへ行くことも話したのかな」
「いいえ・・・言えば大反対しますもの
母は祖母とはうまくいってなくて 祖母は祖母で母のあら捜しばかりするので
どちらも用事があると私を通すんです」
「それは 疲れるね」
ベルナーは話しながらロズモンドの持つ篭に手を添える「僕が運ぼう」
ー両手をふさいでいないと この手でロズモンドを抱きしめてしまいそうになる
ロズモンドのいじらしさに負けてしまいそうになるー
「すみません」
ーもうベルナーとすら呼んでもらえないのか
どれほどこの女性(ひと)にベルナーと呼ばれるのが嬉しかったか 好きだったかー
ーできるなら・・・ああ・・・・-
同じくロズモンドも辛い思いを抱えながら それでもベルナーと一緒にいられることを嬉しく思いながら歩いている
「ファナク様は 貴方様に心を寄せておいでです」
「あの方は頼る人間を必要としている たまたま今はそれが僕だというだけです」
「好きという気持ちは そんな単純なものじゃありません」
ベルナーがファナクの想いに気付いていないはずないのに言ってしまうロズモンド
つい つっかかるような物言いをしてしまう
自分と同じようにベルナーも苦しんでいることに気付けない
「僕は・・・」
言いかけて唇を噛むベルナー
ー大切なのは君だけだ!叫びそうになるのをギリギリのところで抑えている
ベルナーもロズモンドも本当に言いたいことを言わずに 言えずに歩いている
「僕は?」ロズモンドが問いかける
「いや・・・ただ船旅は危険だから
君にアクシナティへの旅をさせたくない」
「ファナク様は とても心細い思いをしておられますもの」
城門まで来るとベルナーは篭をロズモンドに戻した
「すまない・・・用事を思い出した」
「ベルナー・・・様・・・」
「様はいらない
船で眠る時は気を付けるんだ 船の中では一人きりでは動かないように
ひとりで何もかも引き受けるんじゃない」
言うなり大股でベルナーは遠ざかっていく
その後ろ姿を ただ見つめるロズモンド
アクシナティの船の護衛と ベルナーやロズモンドの帰途の為にレイダンドの船も出航する
ーすっかり美しく成長してから存在を知った娘ロズモンド
初めて姿を見た時 その娘は自分の恋する男の命を案じて泣いていたー
カズール・シャンデ将軍の中でロズモンドはベルナーと対で浮かぶ
ロズモンドをロズモンドだけを守ってほしいと頼んできたベルナー
一人でかの領域へ戻らねばならない身だと言うベルナーの表情
男親としては非常に複雑ではあったがー
ベルナーがロズモンドを連れて逃げたなら 追いかけただろうが
ー娘が幸福でない状態でいるのは嬉しくないー
かの領域の弟子たちを連れアクシナティ国へ向かうレイダンドの船に乗り込む予定のバイオンのもとへと 不本意ながらカズール・シャンデ将軍は向かったのだった
その輝きに僕は魅せられた
ひと目で恋に落ちていた
自分が何者であるかも忘れ ごく普通の若者のように
僕は ただ恋に落ちていたんだー
シャンデ将軍と別れてから少し一人になろうと城の外に出たベルナーは いつかロズモンドと初めて会った川辺にたどり着き知らぬ間に歌っていた
ーこの忙しい時に何をやっているんだ 戻らねば 城にー
踵を返したベルナーは・・・ロズモンドの姿を認めた
特徴ある緑を帯びた栗色の髪は太い一本の三つ編みにして肩に垂らし 城にいる時よりは少し短めの動きやすい服を着て 覆いをかけた篭を両手に抱えていた
ほぼ同時にロズモンドもベルナーを見つける
知らぬ顔をして素通りできる距離ではなかった
ベルナーは 初めて会った時より痩せて愁いを帯びてはっとするような美しさを湛えるようになったロズモンドを暫く見つめた
「その篭は」
「祖母から城の皆さんへのおみやげです -暇つぶしに作ったお菓子なのだとかー
長い事 顔を見せないと心配するから会いに行っていました」
以前の屈託ない笑顔でなく口許だけの笑み
声の響きも少し暗いロズモンド
ーもう あのくだけた物言いは 言葉遣いを聞くことはできないのか
そうだ この俺のせいだ
もとはといえば俺が作った壁だ
あの明るさを壊して 奪ってしまったのかー
「アクシナティへ行くことも話したのかな」
「いいえ・・・言えば大反対しますもの
母は祖母とはうまくいってなくて 祖母は祖母で母のあら捜しばかりするので
どちらも用事があると私を通すんです」
「それは 疲れるね」
ベルナーは話しながらロズモンドの持つ篭に手を添える「僕が運ぼう」
ー両手をふさいでいないと この手でロズモンドを抱きしめてしまいそうになる
ロズモンドのいじらしさに負けてしまいそうになるー
「すみません」
ーもうベルナーとすら呼んでもらえないのか
どれほどこの女性(ひと)にベルナーと呼ばれるのが嬉しかったか 好きだったかー
ーできるなら・・・ああ・・・・-
同じくロズモンドも辛い思いを抱えながら それでもベルナーと一緒にいられることを嬉しく思いながら歩いている
「ファナク様は 貴方様に心を寄せておいでです」
「あの方は頼る人間を必要としている たまたま今はそれが僕だというだけです」
「好きという気持ちは そんな単純なものじゃありません」
ベルナーがファナクの想いに気付いていないはずないのに言ってしまうロズモンド
つい つっかかるような物言いをしてしまう
自分と同じようにベルナーも苦しんでいることに気付けない
「僕は・・・」
言いかけて唇を噛むベルナー
ー大切なのは君だけだ!叫びそうになるのをギリギリのところで抑えている
ベルナーもロズモンドも本当に言いたいことを言わずに 言えずに歩いている
「僕は?」ロズモンドが問いかける
「いや・・・ただ船旅は危険だから
君にアクシナティへの旅をさせたくない」
「ファナク様は とても心細い思いをしておられますもの」
城門まで来るとベルナーは篭をロズモンドに戻した
「すまない・・・用事を思い出した」
「ベルナー・・・様・・・」
「様はいらない
船で眠る時は気を付けるんだ 船の中では一人きりでは動かないように
ひとりで何もかも引き受けるんじゃない」
言うなり大股でベルナーは遠ざかっていく
その後ろ姿を ただ見つめるロズモンド
アクシナティの船の護衛と ベルナーやロズモンドの帰途の為にレイダンドの船も出航する
ーすっかり美しく成長してから存在を知った娘ロズモンド
初めて姿を見た時 その娘は自分の恋する男の命を案じて泣いていたー
カズール・シャンデ将軍の中でロズモンドはベルナーと対で浮かぶ
ロズモンドをロズモンドだけを守ってほしいと頼んできたベルナー
一人でかの領域へ戻らねばならない身だと言うベルナーの表情
男親としては非常に複雑ではあったがー
ベルナーがロズモンドを連れて逃げたなら 追いかけただろうが
ー娘が幸福でない状態でいるのは嬉しくないー
かの領域の弟子たちを連れアクシナティ国へ向かうレイダンドの船に乗り込む予定のバイオンのもとへと 不本意ながらカズール・シャンデ将軍は向かったのだった