ーやるべき事は 皇女ファナク様を無事に送り届け レイダンド国とアクシナティ国の同盟を確かなものにする
ロズモンドを道中 無事に守り・・・・・
そして帰るべき場所に帰る
何の困難もない 簡単な事だ・・・・・
何を未練に彼女の部屋の明かりが消えるまで見上げているのか
無事に彼女が眠った事を確認しなくては眠れないのかー
「馬鹿だ・・・」ベルナーの呟きに同意する声があった
「馬鹿だな」
「バイオン様 どうしてここへ」
「我々はずっとお前を見守っていた」
眼だけで問いかけるベルナー
「お前の行動に大長老アスザック様もうるさ方も満足しておられる
そこで案じられるのはログサールの失敗」
ここで長老バイオン師は 重々しく言葉を切る
「いい若い者が長く独り身でいると碌な事が無い
この機に引き合わせておきたい女性(にょしょう)がある
ま・・・平たく言えば縁談じゃな」
無言のままのベルナーの表情を長老バイオン師は視(み)る
「そなたを見込んで持ち込まれた話にアスザック様は許可を出された
そなたは絶対に会わねばならぬ
今夜 これからすぐに!」
口を開こうとしたベルナーを遮るように長老バイオン師は言葉を重ねる
「口答えは許さんぞ 我らが用意したそなたが運命(さだめ)を受け入れるのじゃ!
ついて参れ!」
すっとバイオン師と同じかの領域の人間4名がベルナーを囲む
{無言の檻}でベルナーは動きを封じられた
言葉を発する事すらできない
長老バイオン師とかの領域の人間達 5人がかりの術がベルナーを縛っていた
「術を解こうとするな お前の師アスザールとこの儂を信じよ・・・・」
長老バイオン師はベルナーを城の西の塔の入り口に連れて行き扉の前で言った
「さァ進め 振り返るな
お前の幸福が其処にある」
ベルナーが中に入ると身の自由を奪う術は解けた
塔の中には導くように灯りが置かれている
灯りに従ってベルナーが進むと 椅子に縛られている女性がいた
顔にもゆるく布がかけられている
その身体の線・・・ 姿!
「誰が こんなにひどい事を!」
頭にかけられた覆いを外し その女性(ひと)を縛る紐を外す
縛めを解かれた女性(ひと)は言った
「父と母です」
その女性(ひと)ロズモンドは答えた
ブロディル国の隻眼将軍カズール・シャンデとレイダンド国の女官長メリサンドから
つまり彼女の両親から二人の出逢い その恋の顛末について聞かされていた
そしてー
おもむろにシャンデ将軍は言った
「これから更に大事な話がある その椅子にかけて目を閉じて心を落ち着かせなさい」
素直に従ったロズモンドをシャンデ将軍とメリサンドはあっという間に身動きできない状態にした
「わたしはあなたに わたしやカズールと同じ過ちをしてほしくありません
あなたが旅に出る前に あなたが嫁ぐ相手を決めました
今からその方がここに参ります
心を決めて静かにしてお待ちなさい」
メリサンドは娘にそう言うと部屋を出て行った
ロズモンドが事情を話し終えると 一瞬ベルナーは呆気にとられた表情になり それから笑い出した
「僕の方も似たような話で この中にいる娘が『お前の運命』だとー
だから僕は 一生独り身でいる覚悟でここに来たんだ
でも これは これは・・・」
「ベルナー・・・様?」
「様は要らないって言ったよね」ベルナーはちょっと笑うのをやめる「ああ・・・僕は・・・ここに入って君を見るまで
人生の明かりが全て消えて闇底に落ちたような気分だった」
行儀良く座ったままのロズモンド いや彼女は動けないでいる
動くことが恐ろしいのだった
「誓って領域を出てきた以上 一人で戻らなくてはいけない
誓いは守らねばならない
君を魔法使いとしての人生に巻きこんではいけない
どんなに苦しくても君を諦めるしかない
何かしでかしそうで 君の近くにいるのすらできない
でも 君の姿を追わずにはいられなかった
あの川辺で その長い髪を風になびかせ君が現れた時から その声を聴いた時から・・・・・
僕は君に恋していた
愛している
君が僕の命をこの世に引き戻してくれたんだ
教えてくれ
どうしたら 僕を愛してくれる
僕は 君に愛してもらえる」
ベルナーはロズモンドの足元に膝まずいた「どうか 僕と生きると言ってくれ」
そしてロズモンドは声を出せずにいる
言葉より先に涙が零れ落ちた
「これは・・・本当のことなの?」
振り絞るような細い声は震えている
「君を諦めようと思った
けれど僕の心の中は君でいっぱいだ
毎夜 庭から君の部屋を見上げていた
君の部屋の明かりが消えると漸く眠れる
そして君の夢を見るんだ この腕の中に君を抱く」
「ああ・・・ベルナー」
西の塔の外では心配そうに立つシャンデ将軍とメリサンド
「大丈夫じゃよ」と繰り返す長老バイオン師
シャンデ将軍はロズモンドがどれほどベルナーを想っているか そしてベルナーもロズモンドを大切に想いながら
誓いを守る為に一人で帰ろうとしていることを 長老バイオン師に話した
娘の幸せを願う一人の父親として
長老バイオン師も弟子の幸せを願い動いた
「そもそも{一人きり}で戻らねばならん誓いなどアスタリオン(ベルナー)は立ててはおらん」
ー魔法使いの正式な婚姻には大長老アスザックの許可が必要ではあったがー
さて塔の中では やっとロズモンドが答えていた
「ええ! ええ! あなたと共に生きます」
ロズモンドのその言葉で歌うたいのベルナーこと魔法使いのアスタリオンにしてレイダンド国の王子リオデール
彼は長い孤独から解放された
魔法使いゆえ誰にも真の名は教えられず 呼んでもらえず・・・・
ロズモンドにしてみれば本当の名前すら教えてくれなかったことになる
なのに なのに いつのまにか心の奥底に棲みついて
ロズモンドの心の中はベルナーでいっぱいになって
ー魔法使い 魔法使い もしもあなたが消えたなら 私の心は砕け散るー
それからベルナーはレイダンド国の王子リオデールとして皇女ファナクをアクシナティ国へ送り届け 両国の同盟を結んだ
アクシナティ国の皇帝コキンタクが不在の間に レイダンド国へ向かったはずの船団が戻ってきたり 怪しい事が続いて
皇后シュランサイは女皇帝となっていた
女皇帝シュランサイは皇女ファナクを悪人の餌食にしようとした事でも 前皇帝コキンタクを許さず レイダンド国攻撃失敗の咎とで
その首を刎ねた
女皇帝シュランサイは皇女ファナクの無事を喜び 大事な一人娘を庇護してくれたレイダンド国への恩を忘れなかった
「これからは侵略の戦いばかりの時代ではありません
互いの国を尊重し認め合う
民が幸福であってこそ
安心して互いの国を行き来できる平和があってこそ 真に国は栄えるというもの」
ベルナーがアクシナティへ向かうと時を同じくして アンドール王子とロブレイン王子はマルレーネ姫とエルディーヌ姫とブロディル国へ行き
その旅をカズール・シャンデ将軍とその部下が護衛し 姫君達には女官長メリサンド率いる侍女達も同行した
ブロディルの国王夫妻はアンドール王子がレイダンド国で暮らすという決意について最初は怒ったが
呆れるほど笑顔のロブレイン王子に一蹴された
「では 未熟な弟達がレイダンド国で暮らす方が安心だとでも?」
アンドール王子も冷静だった
「わたしは父上から王になる心得についてお教え頂いております
父上母上にはまだ若々しくお元気であられる
王位を譲られるまでには 弟達を立派な王になれるように導くことができましょう」
その気になれば口のうまいロブレインは幼くして母親を亡くしたアシュレイン姫とリザヴェート姫を褒め上げ
カサンドラ王妃に義理の娘ができることを思いださせる
「なにしろ あの暢気者のリトアールに結婚を決意させた姫ですよ」
ともロブレインは笑うのだった
マルレーネ姫とエルディーヌ姫の人柄にも安心のカサンドラ王妃
そう王妃は気付いていた
息子たちが自分を安心させる為に 自分の妻となる女性を連れてきてくれたのだと
この姫君達とならば 二人とも愛に溢れた一生をおくれるのだと
母親にとっては何よりも子供の幸福が全てなのだ 良き妻に恵まれて
半月の後 アンドール王子とロブレイン王子とマルレーネ姫とエルディーヌ姫はレイダンド国へ戻る事になる
ブロディル国のアンドルフ王はカズール・シャンデ将軍にリトアール王子とダンスタン王子を連れて戻った後は・・・・・
その率いる部隊を連れてレイダンド国で暮らすように頼んだ
アンドール王子とロブレイン王子を守るようにと
これから遠く離れて暮らす息子達への贈り物として行ってほしいと
代わりにレイダンド国からはアシュレイン姫とリザヴェート姫護衛の部隊が来る
そういう取り決めだと
こうして おとぎ話はめでたしめでたしで終ります
でも ちょっと文句を言っている人も
ああ ロズモンドのようです
「やった魚が出会いだなんて ロマンチックではないぞ
全然素敵じゃないと思うぞ
魚で恋に落ちたなんてというのはー」
おや ロズモンドの男言葉も復活しております
ベルナーは ああ 笑顔で抱きしめております
キスでハッピーエンド
(これで終ります 読んで下さった方へ 有難うございました)
オマケ
いたずら描きのロズモンド

いたずら描きのベルナー


ロズモンドを道中 無事に守り・・・・・
そして帰るべき場所に帰る
何の困難もない 簡単な事だ・・・・・
何を未練に彼女の部屋の明かりが消えるまで見上げているのか
無事に彼女が眠った事を確認しなくては眠れないのかー
「馬鹿だ・・・」ベルナーの呟きに同意する声があった
「馬鹿だな」
「バイオン様 どうしてここへ」
「我々はずっとお前を見守っていた」
眼だけで問いかけるベルナー
「お前の行動に大長老アスザック様もうるさ方も満足しておられる
そこで案じられるのはログサールの失敗」
ここで長老バイオン師は 重々しく言葉を切る
「いい若い者が長く独り身でいると碌な事が無い
この機に引き合わせておきたい女性(にょしょう)がある
ま・・・平たく言えば縁談じゃな」
無言のままのベルナーの表情を長老バイオン師は視(み)る
「そなたを見込んで持ち込まれた話にアスザック様は許可を出された
そなたは絶対に会わねばならぬ
今夜 これからすぐに!」
口を開こうとしたベルナーを遮るように長老バイオン師は言葉を重ねる
「口答えは許さんぞ 我らが用意したそなたが運命(さだめ)を受け入れるのじゃ!
ついて参れ!」
すっとバイオン師と同じかの領域の人間4名がベルナーを囲む
{無言の檻}でベルナーは動きを封じられた
言葉を発する事すらできない
長老バイオン師とかの領域の人間達 5人がかりの術がベルナーを縛っていた
「術を解こうとするな お前の師アスザールとこの儂を信じよ・・・・」
長老バイオン師はベルナーを城の西の塔の入り口に連れて行き扉の前で言った
「さァ進め 振り返るな
お前の幸福が其処にある」
ベルナーが中に入ると身の自由を奪う術は解けた
塔の中には導くように灯りが置かれている
灯りに従ってベルナーが進むと 椅子に縛られている女性がいた
顔にもゆるく布がかけられている
その身体の線・・・ 姿!
「誰が こんなにひどい事を!」
頭にかけられた覆いを外し その女性(ひと)を縛る紐を外す
縛めを解かれた女性(ひと)は言った
「父と母です」
その女性(ひと)ロズモンドは答えた
ブロディル国の隻眼将軍カズール・シャンデとレイダンド国の女官長メリサンドから
つまり彼女の両親から二人の出逢い その恋の顛末について聞かされていた
そしてー
おもむろにシャンデ将軍は言った
「これから更に大事な話がある その椅子にかけて目を閉じて心を落ち着かせなさい」
素直に従ったロズモンドをシャンデ将軍とメリサンドはあっという間に身動きできない状態にした
「わたしはあなたに わたしやカズールと同じ過ちをしてほしくありません
あなたが旅に出る前に あなたが嫁ぐ相手を決めました
今からその方がここに参ります
心を決めて静かにしてお待ちなさい」
メリサンドは娘にそう言うと部屋を出て行った
ロズモンドが事情を話し終えると 一瞬ベルナーは呆気にとられた表情になり それから笑い出した
「僕の方も似たような話で この中にいる娘が『お前の運命』だとー
だから僕は 一生独り身でいる覚悟でここに来たんだ
でも これは これは・・・」
「ベルナー・・・様?」
「様は要らないって言ったよね」ベルナーはちょっと笑うのをやめる「ああ・・・僕は・・・ここに入って君を見るまで
人生の明かりが全て消えて闇底に落ちたような気分だった」
行儀良く座ったままのロズモンド いや彼女は動けないでいる
動くことが恐ろしいのだった
「誓って領域を出てきた以上 一人で戻らなくてはいけない
誓いは守らねばならない
君を魔法使いとしての人生に巻きこんではいけない
どんなに苦しくても君を諦めるしかない
何かしでかしそうで 君の近くにいるのすらできない
でも 君の姿を追わずにはいられなかった
あの川辺で その長い髪を風になびかせ君が現れた時から その声を聴いた時から・・・・・
僕は君に恋していた
愛している
君が僕の命をこの世に引き戻してくれたんだ
教えてくれ
どうしたら 僕を愛してくれる
僕は 君に愛してもらえる」
ベルナーはロズモンドの足元に膝まずいた「どうか 僕と生きると言ってくれ」
そしてロズモンドは声を出せずにいる
言葉より先に涙が零れ落ちた
「これは・・・本当のことなの?」
振り絞るような細い声は震えている
「君を諦めようと思った
けれど僕の心の中は君でいっぱいだ
毎夜 庭から君の部屋を見上げていた
君の部屋の明かりが消えると漸く眠れる
そして君の夢を見るんだ この腕の中に君を抱く」
「ああ・・・ベルナー」
西の塔の外では心配そうに立つシャンデ将軍とメリサンド
「大丈夫じゃよ」と繰り返す長老バイオン師
シャンデ将軍はロズモンドがどれほどベルナーを想っているか そしてベルナーもロズモンドを大切に想いながら
誓いを守る為に一人で帰ろうとしていることを 長老バイオン師に話した
娘の幸せを願う一人の父親として
長老バイオン師も弟子の幸せを願い動いた
「そもそも{一人きり}で戻らねばならん誓いなどアスタリオン(ベルナー)は立ててはおらん」
ー魔法使いの正式な婚姻には大長老アスザックの許可が必要ではあったがー
さて塔の中では やっとロズモンドが答えていた
「ええ! ええ! あなたと共に生きます」
ロズモンドのその言葉で歌うたいのベルナーこと魔法使いのアスタリオンにしてレイダンド国の王子リオデール
彼は長い孤独から解放された
魔法使いゆえ誰にも真の名は教えられず 呼んでもらえず・・・・
ロズモンドにしてみれば本当の名前すら教えてくれなかったことになる
なのに なのに いつのまにか心の奥底に棲みついて
ロズモンドの心の中はベルナーでいっぱいになって
ー魔法使い 魔法使い もしもあなたが消えたなら 私の心は砕け散るー
それからベルナーはレイダンド国の王子リオデールとして皇女ファナクをアクシナティ国へ送り届け 両国の同盟を結んだ
アクシナティ国の皇帝コキンタクが不在の間に レイダンド国へ向かったはずの船団が戻ってきたり 怪しい事が続いて
皇后シュランサイは女皇帝となっていた
女皇帝シュランサイは皇女ファナクを悪人の餌食にしようとした事でも 前皇帝コキンタクを許さず レイダンド国攻撃失敗の咎とで
その首を刎ねた
女皇帝シュランサイは皇女ファナクの無事を喜び 大事な一人娘を庇護してくれたレイダンド国への恩を忘れなかった
「これからは侵略の戦いばかりの時代ではありません
互いの国を尊重し認め合う
民が幸福であってこそ
安心して互いの国を行き来できる平和があってこそ 真に国は栄えるというもの」
ベルナーがアクシナティへ向かうと時を同じくして アンドール王子とロブレイン王子はマルレーネ姫とエルディーヌ姫とブロディル国へ行き
その旅をカズール・シャンデ将軍とその部下が護衛し 姫君達には女官長メリサンド率いる侍女達も同行した
ブロディルの国王夫妻はアンドール王子がレイダンド国で暮らすという決意について最初は怒ったが
呆れるほど笑顔のロブレイン王子に一蹴された
「では 未熟な弟達がレイダンド国で暮らす方が安心だとでも?」
アンドール王子も冷静だった
「わたしは父上から王になる心得についてお教え頂いております
父上母上にはまだ若々しくお元気であられる
王位を譲られるまでには 弟達を立派な王になれるように導くことができましょう」
その気になれば口のうまいロブレインは幼くして母親を亡くしたアシュレイン姫とリザヴェート姫を褒め上げ
カサンドラ王妃に義理の娘ができることを思いださせる
「なにしろ あの暢気者のリトアールに結婚を決意させた姫ですよ」
ともロブレインは笑うのだった
マルレーネ姫とエルディーヌ姫の人柄にも安心のカサンドラ王妃
そう王妃は気付いていた
息子たちが自分を安心させる為に 自分の妻となる女性を連れてきてくれたのだと
この姫君達とならば 二人とも愛に溢れた一生をおくれるのだと
母親にとっては何よりも子供の幸福が全てなのだ 良き妻に恵まれて
半月の後 アンドール王子とロブレイン王子とマルレーネ姫とエルディーヌ姫はレイダンド国へ戻る事になる
ブロディル国のアンドルフ王はカズール・シャンデ将軍にリトアール王子とダンスタン王子を連れて戻った後は・・・・・
その率いる部隊を連れてレイダンド国で暮らすように頼んだ
アンドール王子とロブレイン王子を守るようにと
これから遠く離れて暮らす息子達への贈り物として行ってほしいと
代わりにレイダンド国からはアシュレイン姫とリザヴェート姫護衛の部隊が来る
そういう取り決めだと
こうして おとぎ話はめでたしめでたしで終ります
でも ちょっと文句を言っている人も
ああ ロズモンドのようです
「やった魚が出会いだなんて ロマンチックではないぞ
全然素敵じゃないと思うぞ
魚で恋に落ちたなんてというのはー」
おや ロズモンドの男言葉も復活しております
ベルナーは ああ 笑顔で抱きしめております
キスでハッピーエンド
(これで終ります 読んで下さった方へ 有難うございました)
オマケ
いたずら描きのロズモンド

いたずら描きのベルナー

