四十代後半で絶筆宣言した超絶美貌の女流作家咲良伶花(さくら れいか)
学生時代から彼女のファンだった若き編集者の渡部敏明(わたべ としあき)は できることなら作家に戻り新作を書いてほしくて 手紙を送った
咲良の屋敷に招かれた渡部は幾度か会ううちに・・・熱意と真剣さを認められる
どうして作家・咲良伶花は生まれたか
過去の物語を咲良は語る
本名・後藤和子 ごくごく平凡な名前 そのうえ和子は美しくはなかった
スタイルは良かったのだと
転職し その就職の面談で社長に気にいられた
社長の木之内と和子は関係を持つようになる
木之内は女癖のよくない男だった
和子の友人季子は木之内に近づきー妊娠したとー
季子は木之内の妻の座を得た
美しくなりたい
この外見でなければ すぐに新しい仕事も見つけられるのに!
新しい勤務先もなかなか決まらず 和子は両親に金を出させ 整形し自分の外見を作りかえた
誰もが振り向く美貌を手に入れる
耐えられず辞職し別の会社で働くようになる和子
和子は小説を書き始めていた
心には木之内への想いが 未練が溢れている
流産もし木之内との生活がうまくいっていない季子は 和子と木之内が会っていることに気付き
全部和子が悪いのだと 和子の家に電話するばかりか 会社まで押しかけ罵る
「泥棒猫!」
それは噂となり 和子は会社を辞職するしかなくなる
どうにか作家としてデビューできていた和子は 実家を離れ一人暮らしを始めた
作家としての名前 咲良怜花は木之内が考えてくれたもの
女としての和子は木之内の妻になりたかった 子供も産みたかった
それが叶わないなら 作家として小説を書き続けるしかない
木之内という男にとって一番の存在でありたかったのだ
けれど季子と別れ 木之内が新しく妻に選んだ女性は 若くも美しくもなかった
咲良の作家としての名声はたかまっていったけれど
夫にしたら良い配偶者になりえたかもしれない男性との交流もあったけれど
その男達は 木之内ではないのだ
木之内でなければ 意味がない
木之内の娘は心臓に疾患があり治療に1億必要
その1億を貸してくれと木之内は咲良に言う
とうに自分は木之内の1番ではない
気付いてはいたけれど いたけれど
しかも咲良と木之内との長い関係を木之内の妻はずうっと以前から知っていて
咲良に金を貸してくれと頼むように木之内に言ったのは その妻なのだと
木之内にとって1番の存在でありたい
心の支え 夢
からっぽになった
もう書けるわけがない
渡部に語り終えて間もなく 咲良は乗っていたタクシーが交通事故に巻き込まれ 死んだ
葬儀で渡部は木之内と会い 後日あらためて話を聞いた
木之内が見せたのは 整形手術を受ける前の 後藤和子の写真
美しくはないが 木之内の傍で幸福そうな笑顔
木之内は渡部の顔が自分の若い頃に似ていると言う
それから定年を迎えた渡部は 木之内もその妻も世を去った今
もう誰にも迷惑はかけまい
生前の咲良伶花が語った話を書いてもいいだろうと考えるのだ
評伝・咲良伶花ー
愛だったのだろうか 妄執か
手に入らないものを追ってかなわず
希(ねが)いからは遠ざかるばかり
見えない心 真実の姿
そこにあっても闇夜の月は見ることができない
ただ隠れているばかり
解説は内田俊明さん