その女性は王女として生まれたが 国の政情は安定せず 小さな戦いが繰り返されて 物心ついてからは逃げて隠れて暮らす日々が続いた
それでも彼女は恋をしていた
ずうと傍で自分を護ってくれる青年 命を賭けて
青年もまた王女に恋した 一人の女性として愛した
やがて国に平和は戻り 隣国の王子を夫として王女は迎えた
隣国の王子は 良き王となりこの国を治めた
王妃として暮らし死んだ女性の 王女時代の若い恋を知る者は もう殆どいない
あの生きるのに必死だった若い娘の 命がけの恋はどうなったのだろう
王と王妃の間に子供はできなかった
それは残念なことであったが 無理のないことでもあったのだ
そこでこの国の王家の血は途絶えたのだろうか
王女が配偶者を得て暫くし その生活が落ち着いた頃
美しい娘が侍女として 王妃に仕えることになった
王妃に忠実であったこの侍女は 嫁ぎ娘を産む
その娘を王妃はことのほか可愛がり 時にその暮らす家を訪ねた
王妃は侍女だった娘に ある頼み事をしていた
その手紙にはー
・・・・・可愛くいとおしくてたまらない貴女
貴女が現れた時 一緒に暮らせるようになった時 どれほどわたくしは嬉しかったことでしょう
あの人から連絡はありました
それでも信じられなかったのです
最も苦しい時にわたくしを支え守り愛してくれたあの人
王女として城に戻らねばならなくなった時に 全てを引き受けてくれたあの人
この国の平和の為にーわたくしは城に戻り隣国の王子を夫に迎えねばなりませんでした
娘らしい恋心は全て置き去りにし いえあの人へを残して
全部あの人に託して
今更「母」などと名乗りはあげられない
そう諦めていたのに
あの人は ひそかに貴女を育ててくれただけでなく 城に向かう貴女に全てを話してくれていた
今度はお前が王妃様を守れーと
あの人からの手紙には 自分が病気でもう長くないこと
だからこれからは娘を頼む
娘がいつか愛した相手とごく普通の幸せな家庭が持てるようにと
それこそが自分の心からの願いだと
それはこのわたくしの願い 夢
あの人は
暫く娘を母親の傍で暮らさせてやりたい
そうも思ったのだと
わたくしは 貴女のお父様が好きでした 好きでした
愛しておりました 心から
あの小さな村で過ごした時間
何ものにも代え難い幸福な日々
自分は死んだことにしたいと あの人に縋りました
でも あの人は言うのです
国民の事を考えろと
隣国の王子については・・・よく知っていました
悪い人間ではないことも
だから わたくしは安心でした
ええ
夫となった王子とわたくしは よく理解しあえておりました
男と女として愛し合うことはありませんでしたが
ですから子供などできようはずがありません
夫は女性は愛せない人間だったのです
夫には情人がありました
常に夫の傍に居た人物です
ゆえに夫と私は利害が共通する夫婦でもあったのです
それ以外では夫は実に公平で寛大な人物でした
人として優しくあったかくて
それは貴女も知っていますね
夫も このわたくしの望みは知っています
どうか叶えて下さい
お願いです・・・・・
侍女でもあった娘への依頼
それは娘の父親と同じ棺に自分の遺体を入れてくれーというもの
国葬のあと 国王の密かな協力もあり その願いは叶えられた
小さな国の秘密の物語