Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

モーツァルトとクジラ

2008-08-07 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2004年/アメリカ 監督/ペッター・ネス
「恋の成就が人生の門出 」




アスペルガー症候群の2人のラブストーリーってことで、もっと恋の行方がしっちゃかめっちゃかするのかと思ったらさにあらず。病気によって引き出されるトラブルをあまり悲惨に見せていないの。それが、とても良かった。かわいそうだとか、たいへんだとか、観客がそう思ってしまう演出って、おそらくふたりのピュアな人間性を表現するには、邪魔ものでしかないと思う。この監督は、非常にスマートですね。

よって、誰にでも当てはまる普遍的なラブストーリーになっていると思います。誰かと深く関わることの畏れというのは、今を生きる現代人は少なからず持っているものでしょう。アスペルガー症候群の彼らはその「自分の殻」が我々よりも少々固い。でも、殻から出るのも、殻をつつかれるのも、誰だって怖いのです。殻に閉じこもっておけばラクだという気持ちと乗り越えたいという気持ち、その相反する感情に揺さぶられる。そんな境遇には、どんな人でも共感できるのではないでしょうか。

すばらしいのは、ふたりにとって恋が成就することが、すなわち人生を切り開くこととイコールである、ということ。恋が実って良かったね、という安堵感もありますが、むしろふたりが自分の手で人生の新たな門出を開いたその姿が感動的。全編に渡ってさらりと見せる演出なのですが、見終わった後でじわじわと幸福感が味わえる秀作だと思います。