Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

恋しくて

2008-08-08 | 日本映画(か行)
★★★★ 2007年/日本 監督/中江裕司
「地方発、日本映画の可能性」



沖縄の魅力を我々に見せ続けてきた中江監督。しかし、本作では沖縄を前面に出すことよりも、高校生らしい青春物語をクローズアップさせることに注力したようです。その狙いは、しっかりと達成されていて、うだうだとしたバンド練習のシーンやちょっぴりほろ苦い恋の行方など、「青いなあ」「若いっていいなあ」としみじみ思わせられました。

しかし。それでもなお、やっぱり「沖縄的なるもの」が本作を支えていることは間違いありません。これまで、「つかみ」や「フック」として利用されていたものが、本作では「隠し味」のようになっていると言ったらいいでしょうか。それは、例えば主人公の栄順がまだつきあい始めたばかりの加那子に「結婚して、子供作ろうさあ~」と言う。それは、都会の高校生の男子には、およそできない発言だと思われるのですが、沖縄が舞台だと、なるほど、そういう価値観なんだなあ、と妙に納得もし、また新鮮に感じられます。

また、加那子が見せる琉球唐手のシーンもとてもいい。空手は中国から沖縄に入り、唐手と呼ばれていた。そこから本土に伝わった時に「空手」と名前を変えていったようです。琉球唐手がどれほど現代の沖縄の若者に受け継がれているのか、私は知りません。しかし、気分がもやもやした時に精神統一のために黙々と空手の型を磨く。そんな加那子は、沖縄的なるものの継承者のようにも見え、彼女が最後に出す結論もしごく真っ当なものに思えます。

そうして全体を眺めていると、山下監督の「天然コケッコー」が頭に浮かびます。共に、甘酸っぱい恋模様が軸になっていて、作品をより豊かに見せるのは、方言、豊かな自然、そして地方の文化です。そんなことを考えていると、日本には、まだまだ地方発の青春映画の可能性があるのではないかと思わされるのです。例えば、香川の高校生は製麺所でデートするのだろうか、北海道の牧場の息子は絞りたての牛乳をガールフレンドに飲ませるのだろうか。いろいろ考えていると、何だか楽しくなってきます。これまで「沖縄」には飛び抜けて独自の文化があり、それを見せるだけで独創的な作品になるように思っていたのですが、それは大きな勘違いなのかも知れない。まだまだ、日本には面白い「隠し味」がいっぱいあるんではないか、この作品を見てついそんな風に思ってしまいました。