Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

マラソン

2008-08-28 | 外国映画(ま行)
★★★★ 2005年/韓国 監督/チョン・ユンチョル
「最初はシマウマ、雨が降ればチーターになって」




自閉症の青年がマラソンを走り抜く感動物語と思っていたら、これはその母の葛藤を描く物語でした。息子のために良かれと思って応援しているマラソン。それは、果たして息子自らが望んでいることなのか。彼の頑張る姿を見たい母親のエゴイズムではないのか、という問いかけ。これは、全ての子を持つ親への問いかけでもあります。お受験させる親、野球教室に通わせる親…etc。

息子が自閉症だとわかり、一旦はその手を離した母。しかし、そんな自分を深く戒め、何が何でも私がこの子を育てるという決心に至る。そんな、母が「彼があなたを必要としているのではなく、あなたが彼なしでは生きられないのだ」となじられた時の哀しみはいかばかりか。そして、兄にかまけてばかりの母と弟の溝は深まるばかり。

これは、親と子の距離感を描いた作品なんですね。ずっとべったりでもダメで、ずっと突き放しっぱなしでもダメで。その距離はTPOに応じて、縮めたり、伸ばしたりして、努力して良い距離感をキープしていくもの。そして、そのキープに欠かせぬものは、対話であり、信頼。タイトルから予期できる通り、主人公はマラソンを完走します。しかし、過剰な感動演出は全くありません。逆に、もっと泣かせてくれよ、と思うほどです。恐らく、観客を泣かせるためには「自閉症という症状、そして自閉症の息子を育てることってたいへん」という苦労の前フリが必要なんですよ。でも、あまりそれをしてない。そこに、これが実話であることを踏まえた製作者側の、ご本人たちへのリスペクトを感じます。息子に鏡を見せながら笑顔の作り方を指導するシーンなんて、とっても微笑ましくて、微笑ましくて。ストーリーの概要と韓国発と聞いて、ベタベタの湿っぽい感動作かと思いましたが、全くそんなことはありませんでした。親子の距離感、そして家族の幸福とは何かを静かに考えさせられる秀作です。