Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

あなたになら言える秘密のこと

2008-08-13 | 外国映画(あ行)
★★★★☆ 2005年/スペイン 監督/イザベル・コイシェ
「個性あふれる感動作」




感動作として完成度が高いだけでなく、非常に個性的な映画だということで感銘を受けました。その個性の一つは、場所や環境の描き方です。簡素で無機質なハンナの勤める繊維工場。帰り道には、錆びた船の残骸や山のように捨てられたゴミが見えます。一方、ジョセフが勤めるのは海の真ん中にポツンと建つ鉄骨の油田掘削所。まるで世界から見放された場所のよう。スクリーンから潮の香りすら感じさせられました。

そして、これほど寂しげなシチュエーションでありながら、作品としては全く殺伐としたムードが漂っていない。そこがとてもすばらしい。時折インサートされるほんのちっぽけな心の交流が、ぽわんと明かりを灯すようなのです。ハンナとジョセフの会話のシーンでは、カメラはまるでカーテン越しにふたりを捉えているかのような撮影です。スクリーンの端にぼんやりとした影が写ったり、ゆらゆらと揺れたり。その距離感がとてもいいんですね。じっと2人を見守っているような感じです。

ハンナが告げる秘密の壮絶さには、息を呑みました。静かに進む演出だからこそ、その事実の持つ痛みが我々に突き刺さります。また冒頭、「私はハンナの友人です」という語り部の存在がいるのですが、一体それは誰なんだろうと思っていたら、ラストシーンでその秘密が明らかになります。これまた、実につらい現実なのですが、幸福の予感と共に語られることで、ハンナの悲劇が終わりを告げることを感じさせるのです。食事が物語のアクセントになっているのも巧い。とてもいい脚本です。

ティム・ロビンスはさすがの演技ですが、ある意味期待通り。むしろ、サラ・ポーリーの存在感でしょう。感情の起伏の少ない役どころで、もちろん彼女が秘密を抱えていることは観客の誰しもわかっていることですが、悲壮な感じや刺々しい感じがありません。彼女の肩にそっと手を添えてあげたい、そんな気持ちになりました。監督のイザベル・コイシェはバルセロナ出身のスペイン人。スペインと言えば、人物の感情表現は激しく、色鮮やかな映像美なんかを思い起こさせるのですが、この人は全く違いますね。その辺りも実に興味深いところです。