決勝戦でのカナダのミロシェ・ラオニッチ選手は強烈なサーブが連続でセンターに突き刺さり簡単にゲームをとる。片や錦織は左右に打ち分け、セカンドではボディーアタック、レシーブされると何とかストロークで稼ぐ感じで押され気味のスタート。
心配されたのは、昨日の疲労。ベンジャミン・ベッカーとの戦いの中、2セット目に限界のような表情を見せ、ブレークされた。相当きつかったはずだが厳しい表情のままで耐えて、辛うじて何とか勝った印象だった。
昨日の疲れは絶対残っているが、その様子は見せず気力に溢れていた。1セット目はタイブレークにもつれ込んだ。ただ、タイブレークは勝つんではないかとの期待が有った。昨日のベッカー戦で見せたタイブレークの余韻が有る。
パワーと体力でベッカーやラオニッチより劣るが、錦織にはテニスのうまさが有る。タイブレークに関して、チャンコーチから十分な作戦が指示されている感じで一段と集中し一段とギアを上げている。
タイブレークでは、レシーブできなかったセンターの厳しい球も上手に返し、ワイドの強いサーブにも飛びついて打ち返した。ラオニッチの動揺を誘っただろう。気力と瞬発力を増してタイブレークをものにした。
2セット目は疲れでブレークされてしまい、このセットは体力温存に切り替えたと思う。私自身もちょっと休憩した。再びテレビに戻ると、2セット目はとられ、3セット目で2-2になっていた。
ブレークバックされそうになったものの、デュースに2回耐え(2セット目とは異なり)、何とかキープした。あれは非常に大きかった。
ラオニッチのサーブは破壊力が衰えず、珍しく錦織がラブゲームでとる場面も有った。再びタイブレークが予想された。5-4となったところで、ラオニッチのサーブ。
何故かラオニッチは緩めのファーストサーブ二つが続き、錦織に責められ、0-30になってしまう。ラオニッチは慎重になったのか?しかし、ラオニッチの強烈なサーブが入り15-30。追いつきかけたが、15-40からラオニッチのストロークが外れた。
この瞬間、6-4で錦織がこのセットをとり、錦織の優勝が決まった。多くの人がタイブレークを予想していたに違いないが、最後はあっけなかった。家内は何が起きたか分からなかった。
錦織は崩れるようにコートに倒れ、あおむけになり、ラケットを投げ出し、そして起き上がる時、顔を赤くして泣いていた。こらえきれない様に涙が流れた。
そして、泣き顔のまま客席に上がり、数段登ってチャンコーチと抱き合った。やはり、日本のコートでの優勝を日本のファンに見せようとプレッシャーは有っただろう。何とか勝てたことで感極まったか。
杉山愛のインタビューに対して、「3セット目は何をしているのが分からない状態で兎に角、球を追いかけ相手コートにいれようと必死だった」、「泣いてしまいました」というような発言が有った。多分、余裕が全く無かった。
昨日に続き、今日も尻マッサージを受けていたし、ブレークバックされた時は、根気が薄れている状況が見て取れた。意識が薄れる中、何とか勝とうとの気力で持ちこたえ頑張ったのだろう。
ラオニッチは196cmと長身で太目だが、足も速いし、回り込んで錦織の届かない場所に打ち込むうまさもある。錦織側の作戦勝ちは、ラオニッチが前に詰めてきた時、高いボレーで後方に落とした事だろうね。
前に駆け寄られ、一見、苦し紛れにボレーを上げるんだけど、見事に長身のラオニッチのラケットの上を超え、コートの白線の前にポトリと落ちる。プロでも難しいが毎回成功した。あれで、ラオニッチの得意技を封じた。芸術的なボレー。
個人的なことながら、私も中級テニスの練習に通っている。サーブやレシーブ、ストロークの打ち方を参考に見ていた。とてもじゃないが、レベルがあまりにも違い過ぎる。
サーブでは二人とも足を揃え、かなり上にジャンプしている。やや前かがみで球を打ち振り下ろす。落ちる位置は白線の中に入っていない。バシッという音は振りのスピードも有るが、スナップの強さのようだ。
私から見ると殆どが奇跡の連続だ。予想できるのは、コートに立つとラオニッチのサーブ(230km/h)はまず、速過ぎて見えない。私のレベルでは強くドライブのかかった低い球を打ち込まれると、中級クラスの球でも打てない。
錦織はコートから追い出されながらも、瞬間的なラケットとの接触でドライブやスライスで返すんだけど、その瞬間に面を作って相手のいない場所に低く打つ。
また錦織は、ストロークで打つタイミングが非常に早い。バウンドして上がりかけた球を強烈に叩く感じで打ち返している。間違いなく厳しい球が来るから、プロでも困るだろうね。
ラオニッチに前にドロップされた球を打つ時など、両足が180度近く開き、一直線のように伸びている。私の場合、遠いドロップには全く届かないし、あんなアクロバットみたいなことは出来ない。
兎に角よかった。兎に角すごかった。いかつい顔のラオニッチだが、スピーチは紳士的で錦織や開催者、コーチなどを上手に持ち上げた。「3回連続で準優勝はうんざり」とも言った。
錦織は最後、流暢な英語と、同じことを日本語で喋った。楽天の三木谷から看板の様な大きな小切手約3千万円を受け取った。ライオニッチの金額は半分。
観客の声援に応える場面では、中央が球形(直径35cmぐらい)のトロフィー(プラチナカラー)に長い間キスしていた。一旦、唇を離し、またキスしようとしたが、思い直したか、恥ずかしがって止めた。
今日一日休み、今後の上海、パリに備える。全米準優勝、マレーシア優勝に続き休みなくジャパンオープンにのぞみ優勝。11月にはロンドンのATP最終戦(世界8位までが出場)に出るというから過酷だ。ランクは5位、ポイントは6位に上がったようだ。
まさか、日本男子で、世界の一流プレイヤーを相手に互角以上に戦えることが起きるなんて、以前はとても考えられなかった。別世界だったね。それが日本で実現されている。とても信じがたいし、全てが奇跡なんだね。