徳丸吉彦「ミュージックスとの付き合い方 : 民俗音楽学の拡がり」放送大学業書 左右社(2016/4)
に引用された,エドゥアルト・ハンスリックの「音楽美論」(1984)における主張は,音楽と感情の間には一対一の対応がないというもの.従ってアメリカ産のラブソングが日本に渡ると「冬の星座」という崇高壮大な歌詞がつく.
この遷移は日米の異文化間だから起こったという見方もありそう.しかし賛美歌には遡れば流行歌という例があるそうだ.
ハンスリックの主張は音楽が音楽であるためには感情表現は問題ではない,音楽はただ音の動きによって成立するということである.音楽には音響の構成という形式上の側面があり,それが音楽で観察すべき対象である,とも言う.
作曲されたときの感情とは決別し,音響の構成のみに注目するのは,ジャズそのものではないか.
All the things you are はジャズメンの大好きな曲だが,冒頭の動画が原曲 (ミュージカル) に近いらしい.2分半ほどでおなじみのメロディが現れる.これを換骨奪胎すると,例えば下のようになって,「君は我がすべて」という情感はどこかにすっ飛んでしまう.
演奏は,Pat Metheny (guit) with the Heath Brothers : Jimmy (ts), Percy (bass), and Al "Tootie" Heath (drums).
曲名は All the things... となっているが,テーマには原曲の面影がない.その代わりギターソロに原曲が現れるのが可笑しい.この新テーマは Kenny Dorham が作ったもので,Prince Albert という曲名も与えられている (Prince Albert には意外な意味があるらしい).Youtube には Kenny Dorham が入ったJazz Messengers の演奏もある.
コード進行を拝借して作った曲を新曲と称するのは,Ornithology, Dona Lee など,チャーリー・パーカーが得意とするところ.しかし遡れば,グノーのアベ・マリアがバッハ原曲だったりする.
話題としては Softly as in a morning sunrise と Walk don't run の二番煎じになってしまった.失礼いたしました.