カットは産経ニュース 2015.5.7 07:00「これは一体どこの国の教科書なのか…」より転載.
昨日の,高橋 秀樹, 三谷 芳幸, 村瀬 信一「ここまで変わった日本史教科書」吉川弘文館 (2016/8) の続きです.
本文の他に,「日本史教科書 Q&A」付録として,1) 中学校学習指導要領社会科 (歴史的分野 平成 19 年度),2) 中学校学習指導要領社会科 (歴史的分野 昭和 44 年度),3) 義務教育諸学校教科用図書検定基準 (抄 平成 26 年 1 月告示) がついている.Q&A がおもしろい.また付録からは政権の検定への影響がうかがえる.
この本の著者は教科書を検定する側だから,タイトルを「ここまで変わった日本史教科書検定」としたいところ.しかし,近現代の記述はまことにお役人的で,教科書で従軍慰安婦などのきな臭い問題をどうしたかについては,ほとんどスルーである.
2007 年に遡るが,高校生の日本史教科書の検定で,沖縄戦の際に日本軍が住民に集団自決を強制したという記述が削除されたので,沖縄県議会が 6 月 22 日に,検定意見の撤回と記述の回復を求める意見書を全会一致で可決したという事実がある (http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20070623/jiketu).ネットによれば,この本の著者のひとり村瀬氏が,このとき検定に当たった張本人とされている.
この本には「検定意見と修正の実例は文科省のサイトに出ている」と書いてある.上の例はどうだろう.確かに過去の検定事例を載せたサイトがある.何年何月とまとめてあるのだが,1997 年から 2006 年までは毎年事例があるのに,そのあとは 2009 年まで跳んでいるのだった.
この集団自決問題は検定の「実例」としてはふさわしくないとの判断からアップされなかったと思うが,実際の教科書ではどうなったのだろう.
BTW
村瀬氏による本書のコラム「謎もロマンもないけれど」には天皇機関説について,「この事件が政党政治の基盤を掘り崩してしまったことはどの本 (教科書のこと) でも書いてある.しかしその理由を詳しく解説したら,帝国憲法の,条文とはまた別の運用面の特質という,重要だが軽視されがちな問題に生徒が関心を持ってくれたかもしれない」と言っている.これだけでは素人には何のことかワカリマセン.Wikipedia に書いてあることを指しているのだろうか.