髙橋弘憲「医療小説 ドクターG(じい)の教訓」論創社(2019/4) .図書館で借用.☆☆☆★
翻訳ミステリの出版社と思っていたが,こんな本も...
ストーリーは I,II,III の3部構成.I では女子医学生・有里が,ドクター G (じい,爺いのことらしい )のクリニックを受診したのをきっかけに,このクリニックで G の弟子としてバイトを始める.このバイトは II で国試に合格し医局に入ってからも週一で続く.III では助平な医局長との軋轢から僻地の診療所に飛ばされる.G は一貫して有里に医師として大切な知恵や心を伝える.
著者は自治医科大学出身.僻地や地域中核病院,大学血液病棟などの勤務を経て,内科クリニックを開設.日常の診療活動にとどまらず,新鮮血観察(FBO)から見た理想的な健康法を研究し、自ら実践しながら指導に当たっているとのことである.
ヒロインがいろんな症例や出来事を通じて成長する姿を描く「医療小説」.
食事が喉を通らないというので食道がんを疑ったら,実は動脈瘤が食道を圧迫していたのだった,内視鏡で動脈瘤を破裂させたら命取りだった...というようなエピソードが随所に現れる.
クライマックスは僻地で患者の脳内出血を抜くために,彼女が G から送られた骨髄穿刺針なる器具を転用して,頭蓋骨に穴をあける場面.
病名や医学用語が頻出するが,抵抗なく読めた.ときどき囲みとして「医学生(後にドクター)有里の解説」として医学知識が与えられる.この部分はせっかくだが飛ばし読み.
他の職に就けないので仕方なく介護士になったひとが多いという見解は「親を老人ホームに入れようと思った時に読む本」でも読んだことと一致する...これが日本の常識らしい.
医療道徳の小説化で,それ以上のことは期待できない.類型的な人物が類型的に行動するだけである.Gは有里に車を呉れてやったり,可愛がりすぎだが,まぁご愛嬌.