岡本綺堂,末國善己 編,東京創元社 (創元推理文庫 2022/2).
半七捕物帳のアンソロジーでいちばん新しそうなのを図書館で借用した.
Amazon の内容紹介*****
明治時代の東京に住む、元・岡っ引きの半七老人。彼が江戸時代の若き日に遭遇した事件を、新聞記者に語って聞かせる時、捕物帳が鮮やかに蘇る! 毎晩、旗本の家に現れるびしょ濡れの女の幽霊の正体を暴く「お文の魂」。素人芝居の最中、舞台用の刀が本物とすり替えられ、若旦那が死んだ事件の真相を探る「勘平の死」。火事でもないのに町内の半鐘を鳴らす者が現れ、ついに傷害事件が続発する謎を解く「半鐘の怪」。蝶が何万匹も異常発生した本所で、「凶事の前兆が起こる」と予言していた尼が、首を切断され殺された事件を調査する「蝶合戦」など18編。『シャーロック・ホームズ』の影響を受けて誕生し、全ての捕物帳の原点となった著名なシリーズ、ミステリ傑作選として降臨!*****
発表された順に配置されていて,初期の作品は半七が狂言回しの人情噺の感じだが,次第にミステリらしくなる.解説に山田風太郎絶賛とある「三つの声」は,こういうのよくあるな,という感じだが、「新青年」当時は時代を先取りしていたのだろう.
江戸時代はミステリの舞台には不向きと思っていたが,特に晩年の作品のストーリーは江戸末期ならではの特色を生かしていて,ひとつのジャンルを確立している.
解説が言うように,著者が捕物帳で重視していたのはトリックではなく,世話物狂言のような入り組んだ因果関係だったのだろう.むしろ世話物狂言のような著者の得意分野に,ミステリを引きずり込んだという見方もできそう.
まず男女関係を疑うのが半七推理のいとぐち.やたらと蛇もでてくる.でもエログロ感はない.事件解決には偶然と幸運が預かることが多いのがご愛嬌.
書かれたのは 1910-1930 年代で,リアルタイムの読者にとって半七の活躍はついこないだのこと.現在からの時間差では戦前あたりだろう.
作品に出てくる地名は,1941 年東京生まれにとっても懐かしく響くものが多かった.若ものを相手に老人が昔を語るというところは,サム・ホーソーン先生ものと同じ.世界共通のパターンらしい.
三人称単数の女性の代名詞として「かれ」が使われている.goo 辞書には「(代名詞として) 明治時代まで男女の区別なく用いた」とあり,森鴎外の「舞姫」の例が載っている.この例文は文語体だが、漱石の口語体ではどうだろう.
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