古書はもっぱら読むために買う.財産投資のつもりはない.しかし年金生活者の財産節約にはなる.この本も,ちくま文芸文庫で 1000 円だが,古書ならハードカバーで 300 円.ちなみに刊行時の定価は 2500 円.
野崎昭弘「数学的センス」日本評論社 (1987/10).
19984-85 年の雑誌「数学セミナー」連載を再編したもの.全 16 話.著者あとがきによれば,「空間のセンス」「美的センス」「知的センス」の3話が中核で,他の話はすべてこれら3話への「いろいろな角度からの補足」だそうだ.
例えば,「美的センス」.
3角形の内角の和は2直角
4 角形の内角の和は 4 直角
5 角形の内角の和は 6 直角
6 角形の内角の和は 8 直角
というわけで,「n 角形の内角の和は (2n-4) 直角」である.この証明はいろいろあるが,美的センスがあるのは
内角の和 = (内角の和と外角の和の合計) - 外角の和
を使う方法だという.図によれば,ひとつの曲がり角での内角と外角の和は2直角.ゆえに上の式の右辺第1項は 2n 直角.外角の和は,図のように多角形の周りを一巡すなわち 360 度回るに過ぎないから,4直角.したがって,n 角形の内角の和は (2n-4) 直角となる !!
著者は高木貞治が「代数学講義」の中で「美シイ」とする定理などには違和感があるようだ.著者は「わかる」ことのよろこび,わかりかた = 証明法に「美」を見出しているらしい.
安野光雅によるブックデザインが美的センスにあふれた本.
80 年代には「数学セミナー」をときどき読んでいたはずだが,この連載は覚えていない.