【社説①】:サウジ記者失跡 報道の自由は殺せない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:サウジ記者失跡 報道の自由は殺せない
サウジアラビア政府を批判してきた記者がトルコで行方不明になった。サウジ皇太子の指示による拘束と報じられている。殺害された恐れもある。報道への弾圧なのか。徹底した真相解明を求める。
不明になったのはサウジ人記者ジャマル・カショギ氏(59)。今月二日、結婚に必要な書類を取得するため婚約者の出身国トルコ・イスタンブールのサウジ領事館を訪れた後、連絡が取れなくなった。
米紙ニューヨーク・タイムズは、同氏が殺害されたことを示す映像をトルコ政府が入手していると報道。ワシントン・ポストは、米情報機関の通信傍受によるとして、サウジのムハンマド皇太子が拘束を命じたと伝えた。
ムハンマド皇太子は、女性の運転解禁などイスラム教の規制緩和を進める一方で、人権活動家らを拘束、内戦状態の隣国イエメンへの軍事介入も進めてきた。
カショギ氏は移住先の米国を拠点に、皇太子批判記事をワシントン・ポストなどに寄稿してきた。
関係国による調査が急務だ。サウジは疑惑を否定。トルコによる捜査も進んでいない。トランプ米大統領は「真相を究明したい」と述べたが、具体的な対応には消極的で、「不明になった記者は米国民ではない」と言い出す始末だ。
米国は対イラン包囲網の主要国として重視するサウジと、千百億ドル(約十二兆円)相当の武器輸出で合意している。ビジネス優先で、人命や報道の自由をおろそかにしているならば言語道断だ。
記者が巻き込まれる事件が相次いでいる。報道の自由を重視しているはずの欧州連合(EU)の域内でさえもだ。
ブルガリアではEUの補助金に絡む汚職疑惑を報道していた女性記者が殺害された。スロバキアでは二月、政界とマフィアの癒着を取材していた男性記者が婚約者と共に射殺された。
マルタでは昨年十月、タックスヘイブン(租税回避地)を告発したパナマ文書報道に関わった女性記者が運転中、爆弾の爆発により殺害された。パナマ文書ではムスカット首相夫妻の不正蓄財疑惑が浮上していた。
サウジ記者不明事件では、国連人権高等弁務官事務所が「早急な独立した国際的調査」を求めている。報道への圧力や脅しを許さない国際世論を盛り上げたい。
フェイクニュースが世界を惑わす中、真実を報じる意義はますます増している。ひるまずに報道は続けねばならない。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年10月15日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。