《社説①》:衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:衆院選で自民過半数 首相は謙虚な政権運営を
4年ぶりとなった衆院選で自民党は単独過半数を維持した。岸田文雄首相が引き続き政権を担うことになった。
選挙結果について首相は「信任を頂いた」と強調した。しかし、甘利明幹事長や複数の閣僚経験者が小選挙区で落選するなど、9年間に及ぶ自民党政治に対する国民の不信も表れた。
後手に回った新型コロナウイルス対応で失われた信頼を取り戻すことができるのか。首相就任間もない岸田氏にこの難局のかじ取りを委ねられるのか。それが問われた選挙だった。
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自民は直前に不人気だった菅義偉前首相から岸田氏へと「選挙の顔」を代え、日程を1週間前倒しした。首相交代で内閣支持率が持ち直す中、自民に有利な環境だったが、都市部では野党候補に競り負けるケースも目立った。
小手先の対応だけでは失われた政治への信頼が取り戻せないことを、首相は重く受け止めなければならない。
◆大物落選は不信の表れ
就任から1カ月足らずの首相には実績がなく、「安倍・菅政治」を変えられるかが焦点だった。安倍晋三政権からの9年間では、政治に対する国民の信頼が損なわれる事態が相次いだ。
コロナ対応では失政が続いた。経済活動の再開に前のめりになり、感染拡大を防げなかった。病床の確保が追いつかず、自宅で亡くなる人も出た。生活困窮者や休業を余儀なくされた飲食店への支援も十分に届かなかった。
経済政策では格差拡大を招いた。成長と効率を重視するアベノミクスで富裕層は潤ったが、非正規労働者が増えた。
異論を認めず、国会を軽視する姿勢も目立った。「政治とカネ」の問題では説明責任を果たそうとしなかった。安全保障関連法など世論が割れる政策を、「数の力」で強引に進めた。森友・加計学園問題などでは行政の信頼性も揺らいだ。
自民党総裁選で首相は「民主主義の危機」を訴え、従来の政治からの転換を打ち出した。新自由主義的な政策を見直し、格差を是正するために富の再分配を進めることが主張の柱だった。
ところが衆院選では「岸田カラー」がかすんだ。遊説で「分配」よりも「成長」を強調する言いぶりに変わり、アベノミクスをなぞっているようだった。
森友学園を巡る公文書改ざん問題の再調査や、政治とカネの問題への取り組みにも消極的だった。業者への口利き疑惑を抱える甘利氏が小選挙区で敗れたのは、こうした姿勢に対する有権者の不信を象徴している。
一方、野党第1党の立憲民主党は、共産党、国民民主党などと小選挙区の7割以上で候補者を一本化し、野党5党による共闘態勢で臨んだ。
◆安倍・菅政治と決別必要
前回、野党第1党の民進党が分裂したことを教訓にしたものだ。今回は1対1の構図を作ることはできたが、政権交代への期待を高めるまでには至らなかった。
政治の現状に対する国民の不満が高まっているにもかかわらず、民意を受け止めきれなかった。立憲は、共産との選挙協力の戦術を含め検証を迫られる。
「改革」を訴えた日本維新の会が大きく議席を伸ばし、自民、立憲に対する批判の「受け皿」となった形だ。
コロナ禍で政治が生活に直結すると多くの人が実感した。にもかかわらず投票率が大幅に上がらなかったのは、与野党が争点を明確に示せなかったからではないか。
岸田政権が取り組まなければならない課題は山積している。格差是正やコロナ対策と経済活動の両立、人口減少社会への対応などは待ったなしだ。首相の政策実行力が試される。
首相は街頭演説で「信頼と共感に基づいて丁寧で寛容な政治を進めたい」と訴えた。そうであるならば、安倍・菅政治の問題点を率直に認め、脱却することから始めなければならない。謙虚で丁寧な政権運営が求められる。
来年夏には参院選が控える。今回とは異なり、岸田政権の実績が審判を受けることになる。野党も衆院選の結果を総括したうえで、どう対峙(たいじ)するかが問われる。
本格的な国会論戦は今月中にも始まる。コロナ禍が続く中、どのような国づくりを目指すのか。建設的な議論を期待したい。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年11月01日 04:51:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。