【社説①】:「偽情報」対策 国益損ねる拡散を放置するな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:「偽情報」対策 国益損ねる拡散を放置するな
偽情報で相手国の世論に影響を与えようとする「情報戦」の動きが、各国で問題になっている。日本は、こうした事態への備えが十分とは言えない。対策を急ぐ必要がある。
政府は、外国から発信される偽情報に対処するため、体制の整備に乗り出すと発表した。
ツイッターなどSNSや、インターネット上の情報収集を強化して、国益を損なうような偽情報の発見に努め、正確な情報を発信するのが目的だ。
ロシアのウクライナ侵略を巡っては昨年、ゼレンスキー大統領が国外に逃亡した、との偽情報が一時期、SNSで広まった。ウクライナ側の士気の低下を狙ったロシアの作戦だったとされる。
中国は台湾向けに、「米国が台湾有事を起こそうとしている」といった情報を拡散した。台湾の世論に米国離れをもたらす意図があるとみられる。偽情報は、安全保障上の脅威となっている。
日本はこれまで、言葉の壁もあり、海外からの偽情報は少なかった。だが、昨年8月、岸信夫首相補佐官(当時)をかたるツイッターの偽投稿が問題となった。
ウクライナがミサイルでザポリージャ原子力発電所を破壊しようとしている、とウクライナを非難する内容で、岸氏が投稿した形を装っていた。それを在英ロシア大使館が拡散していたことを日本政府が発見し、削除させた。
SNSやネット上の情報が、虚偽かどうかを判断するのは、極めて難しくなっている。
生成AI(人工知能)の「チャットGPT」が開発され、日本語でも巧妙に自然な文章を作り出すことが可能になった。最近は、AIを使って偽の動画まで作り出され、拡散している。
米国は、国土安全保障省内に、外国からの偽情報を監視し、誤った情報は打ち消して被害を抑える専門機関を設置している。
日本は、内閣情報調査室を司令塔として、外務、防衛両省が主に情報を収集する役割を担う。相互の連携を密にしてもらいたい。
ネットやSNSを運営する事業者の責任も重い。政府は、事業者が投稿を監視する人員を十分に確保し、偽情報の拡散を防ぐよう促す対策を講じるべきだ。
SNSなどの利用者が、情報をそのまま 鵜呑 みにしないようにするためには、発信源が信頼できるメディアかどうかを見極める力が大切になる。教育現場で「情報リテラシー」の向上に取り組むことが欠かせない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月05日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。