【社説①】:能登地震1か月 復興に向けた工程表が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:能登地震1か月 復興に向けた工程表が必要だ
◆長い避難生活への手厚い支援を◆
能登半島地震の発生から1か月になる。被害は甚大で、復興には長い時間を要する。課題を整理し、優先順位をつけて、一つひとつ解消していくことが大切だ。
当初は、被災者の救出や避難所の開設が最も重要な課題だった。その後、被災地外への2次避難が始まり、学校も再開された。
今なお解決されていないのが、断水の問題だ。水道管の破断が多発し、依然として多くの地域で水道が使えない。全国から自治体職員らが応援に入り、復旧作業を進めているが、復旧が4月以降になる地域もあるとみられる。
◆断水対策に全力挙げよ
被災者は、避難所に設けられた給水所などで生活用水を確保するほか、川の水を 貯 めて洗濯やトイレに使う生活を余儀なくされている。水を節約するため、歯磨きや手洗いをためらう人もおり、感染症のリスクも高まっている。
避難所での共同生活に疲れ、損壊した自宅に戻る被災者も増えているという。高齢者らが重い水の入ったタンクを自宅まで運ぶのは一苦労だ。給水車をこまめに巡回させるなど支援の強化が欠かせない。
家屋の倒壊が相次ぎ、仮設住宅への入居を望んでいる人は多い。しかし、被災地には建設用地となる平地が少なく、着工が遅れている。石川県の馳浩知事は、効率よく入居できるように、2階建ての仮設住宅の建設にも言及した。
自治体が民間のアパートなどを「みなし仮設」として借り上げる措置も含めて、関係者で打開策を検討してもらいたい。
道路の寸断により、倒壊した家屋の撤去が今も思うように進んでいない。ボランティアの被災地入りも困難な状況で、復旧が遅れる大きな要因となっている。
この1か月を振り返り、どのような課題が残っているのか、精査する必要がある。政府が設置した復旧・復興支援本部を中心に、中長期的な視点に立って、復興の計画を組み立ててほしい。
親類や知人の家に身を寄せている人も含め、被災者は散り散りになって避難している。各被災者の実態把握に努め、孤立や支援漏れを防がねばならない。自治体と住民の連絡や、住民同士の交流が途絶えないような工夫も必要だ。
◆産業や文化の再生も
地震は、能登の地場産業にも壊滅的な打撃を与えた。今後は、どのように事業の再開を支えていくかが課題となる。
漁業では、海底の隆起で多数の漁港が損壊し、津波によって漁船の転覆や沈没が相次いだ。寒ブリのシーズンを迎えているが、製氷機が地震で使えなくなり、金沢などから氷を運んで何とか出荷を維持している状況だ。
被災地沿岸は、「能登かき」のブランドで知られる養殖ガキの産地でもあるが、カキ棚も激しく壊れた。イカ漁などを含め、経済的な損失は計り知れない。
伝統産業の輪島塗は、輪島市中心部で広がった火災や地震の衝撃により、大半の生産・販売拠点が倒壊、焼失した。重要無形文化財保持者(人間国宝)を含め、多数の事業者が被災している。
林業や畜産、酒造、観光産業も大きなダメージを受けた。
政府は、事業者の施設復旧や伝統産業再生などを補助する支援パッケージを公表した。
観光需要を喚起するため、旅行代金を補助する「北陸応援割」も始めるという。こうした支援策を着実に実行することが重要だ。
被災地は、地震前から過疎や高齢化が進んでいた地域でもある。将来の街づくりをどう進めるのかが見えなければ、住民の不安はさらに募るだろう。
国や自治体は、今から街の再生を考えておく必要がある。安全に暮らせることはもちろん、産業や観光、文化が以前より活性化するような方策を探ってほしい。
これまで何度も大災害に見舞われてきた日本では、災禍を乗り越えるための新たな技術やアイデアが生まれている。
西日本豪雨などを機に、プールなどの水を浄化して何度も再利用できる簡易シャワーが開発された。今回も被災地に運び込まれ、多くの人たちに喜ばれた。
◆過去の知見を生かして
熊本地震を経験した熊本市職員の働きかけで、全国から応援に駆けつけた自治体職員のために、キャンピングカーを宿泊場所として使う試みも取り入れられた。
能登半島は厳寒期にある。こうした知見も最大限活用して、過酷な避難生活を送る人たちのつらさを少しでも和らげたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年02月01日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。