【社説②】:警官「捏造」証言 何があったか検証し説明せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:警官「捏造」証言 何があったか検証し説明せよ
警視庁が摘発した事件で、捜査を手がけた現職警察官が「事件は 捏造 だった」と法廷で異例の証言をした。何があったのか。捜査当局は徹底検証し、説明すべきだ。
警視庁は2020年、軍事転用が可能な機械を無許可で輸出したとして、製造会社の社長ら3人を外為法違反の疑いで逮捕した。
この機械は液体を粉末に加工でき、粉ミルクなどの製造に使われている。特別な性能を持つものについては、経済産業省の省令で、輸出する際に許可を得るよう定めている。生物兵器の製造に悪用される恐れがあるためだ。
3人は起訴されたが、東京地検は21年、初公判直前になって起訴を取り消した。弁護側が、独自に実験を重ね、この機械は輸出許可が必要な製品に該当しないと主張したところ、検察側は反論が困難だと判断した。
機械の性能を巡る立証の難しい事件だったのかもしれないが、逮捕された3人は、最長11か月間も勾留され、うち1人は起訴取り消し前に病死している。本人や遺族の無念は察して余りある。
警察と検察からは、いまだに説明も謝罪もないという。「捜査に問題はなかった」という立場で、何の反省もないのであれば、それは独善だと言わざるを得ない。
今回、捜査の違法性を問う国家賠償請求訴訟で、警視庁公安部の担当警察官が証人として出廷し、事件は「捏造」だったと述べた。捜査幹部の出世欲が背景にあったと受け取れる発言もあった。
別の警察官は、上司に追加捜査を進言したが、「事件が潰れたらどうする」と言われたという。
上司は法廷で、適正な捜査だったと述べたが、2人の部下が 揃 って捜査を批判するなど前代未聞の事態だ。経産省の担当者も、無許可輸出には当たらないと、何度も警察に伝えたと証言している。
警察は、最初に描いた事件の筋書きにこだわり、立件に不利な証拠と向き合おうとしなかったのではないか。検察は、適切に捜査を指揮したのか。捜査への疑問を指摘する声がこれだけ上がっている以上、経緯を明確にすべきだ。
経済安全保障の重要性が高まっている。日本の先端技術が国外に流出しないよう、厳しく監視することは大事だが、捜査に行き過ぎがあってはならない。
警察や検察に逮捕などの強い権限が与えられているのは、国民の信頼があってこそだ。今回のような捜査が繰り返されれば、その信頼が揺らぎかねない。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年07月20日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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