【社説①】:首相中東訪問 脱炭素で存在感を発揮したい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:首相中東訪問 脱炭素で存在感を発揮したい
ロシアによるウクライナ侵略で、エネルギー供給が不安定化しているなか、中東産油国の重要性は増している。政府はこうした国々との関係を戦略的に構築せねばならない。
岸田首相が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールを歴訪した。日本の首相が中東を訪問するのは2020年1月以来、3年半ぶりだ。
日本は、中東に原油輸入の9割以上を依存している。近年は調達先の多角化を図ろうとして、ロシア極東の石油・天然ガス開発事業に参画したが、ウクライナ侵略後、事業は停滞している。
エネルギーを安定的に確保するためには、中東との交流を深化させ、この地域での日本の存在感を高めていくことが重要だ。
首相はサウジのムハンマド皇太子と会談し、「国際原油市場の安定や石油・ガス、クリーンエネルギーなどの様々な分野で協力を一層進展させたい」と述べた。皇太子は「双方の利益になるよう努めていきたい」と応じた。
サウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなどを含めたOPECプラスは昨年来、世界経済の減速を理由に、原油の減産を続けている。原油価格の引き上げが狙いとの見方がある。
ウクライナ危機に伴うエネルギー価格の高騰は、国際社会に打撃を与えている。産油国は安定的な供給に努めるべきだ。
首相は、サウジが進める脱炭素化に、日本として協力を強化する考えを表明した。
サウジは石油依存から脱却しようと、産業の多角化に取り組んでいる。天然ガスを利用し、水素やアンモニアなど次世代燃料を製造することも計画している。
日本は、こうした脱炭素の技術で先行している。先端技術の提供は、これまでの「産油国と消費国」という関係を、相互に支え合う形に変えることになろう。
3か国は、外国人の流入で人口が急増し、著しい成長を遂げている。今回の首相の訪問に日本企業約30社が同行したのは、中東への投資を視野に入れているのだろう。官民で協力を深めたい。
中東地域では、米国の関与が薄まっている一方、中露が影響力を強めている。今年3月には中国が、サウジとイランの関係を仲介して正常化させた。
首相は、各国首脳との会談で、法の支配に基づく国際秩序を重んじる立場を強調した。各国と対話を重ねて、こうした価値観を共有していくことが大切だ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年07月20日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます