【社説・11.19】:告発問題 終わっていない/兵庫知事に斎藤氏再選
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.19】:告発問題 終わっていない/兵庫知事に斎藤氏再選
兵庫県知事選で、前職の斎藤元彦氏が当選を果たした。知事だった時に自らのパワハラ疑惑などを告発する文書が配布され、側近らに告発者の特定を指示。県の公益通報窓口にも通報していた元県幹部の男性を懲戒処分にしたが、男性は「死をもって抗議する」とのメッセージを残して亡くなり、公益通報への対応などに批判が噴出した。
県政混乱の責任を取り辞職した元副知事からたびたび辞職を進言されても拒み、県議会調査特別委員会(百条委員会)による尋問では処分の正当性などを主張したものの、県議会から全会一致の不信任決議を突き付けられた。失職を選び、政党の支援なしに出直し選に臨み、再選を目指した。
交流サイト(SNS)の活用で支持を広げ、再選は見込めないとの大方の見方を覆し、今後4年間の県政を託されることになった。しかし告発文書問題はくすぶり続ける。この間も百条委は告発内容の真偽や処分の経緯を巡り非公開で県職員の尋問を重ね、県の第三者委員会も関係者のヒアリングを進めている。
官民を問わず、トップが組織を使って告発者を追い詰め自らの疑惑を握りつぶすなどあってはならないことだ。斎藤氏はその疑いをまだ払拭できていない。公益通報制度への信頼は大きく揺らいでいる。斎藤氏、そして県議会は最優先で告発問題の解明と説明に取り組む必要がある。
告発者の男性が亡くなった衝撃は大きく、斎藤氏は県職員労働組合などから辞職を迫られ、百条委では職員や幹部が次々と斎藤氏のパワハラなどを証言。公益通報窓口の調査を待たず、男性を処分した対応に専門家からも公益通報者保護法に違反すると指摘され、厳しい追及にさらされた。
ところが選挙戦に入り、状況は一変。SNS上の発信が功を奏し、出馬した「NHKから国民を守る党」党首が斎藤氏への投票を呼びかけるなどして、支持は急激に拡大した。「県議会にはめられた」との陰謀論も出回り、当選を後押しした。斎藤氏は「何が真実か、県民一人一人が判断してくれた」と話すが、本当にそうだろうか。デマを含め、さまざまな情報が飛び交う中で真実をいかに見極めるか、今後も大きな課題となろう。
斎藤氏は当初、告発文書のパワハラや「おねだり体質」の疑惑を「うそ八百」と非難。県は通報者に対する不利益な扱いを禁じる公益通報制度の対象外とし、公益通報窓口の調査を待たず「誹謗(ひぼう)中傷」と断じた。
パワハラ疑惑で、斎藤氏は自身の物言いに反省を示したものの「百条委が判断すること」と明言を避けた。一方、男性の処分については、弁護士にも相談したと強調するなどして「問題ない」と繰り返した。選挙戦でも反省の言葉はなく、県議会の対応や男性の告発を批判したこともある。
斎藤氏はさらに説明を尽くし、百条委は告発文書への対応のどこに問題があったか、はっきりとさせる必要があろう。
折しも消費者庁で進められている通報制度見直しの議論では男性のような通報者の保護が焦点となり、通報者探索を禁じる規定を設け、違反に行政措置や刑事罰を科すことが検討されている。「犯人捜し」が横行すれば、組織は自浄力を失っていく。そうならないよう、制度の見直しを急がなくてはならない。
元稿:東奥日報社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 09:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます