《社説・11.11》:個人通報制度 たなざらしにし続けるな
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説・11.11》:個人通報制度 たなざらしにし続けるな
選択的夫婦別姓の導入と並んで、国連の女性差別撤廃委員会から重ねて勧告を受けていることがある。個人通報の制度を定めた「選択議定書」の批准だ。
委員会は、女性差別撤廃条約の締約国の取り組みを定期的に審査し、総括所見(勧告)を出す。選択議定書の批准について、検討中との回答を繰り返す日本政府に対し、先月の勧告で、あらためて早期の批准を促した。
個人通報は、国内で裁判などの手だてを尽くしても人権侵害の回復が図られない場合に、当事者が国連の条約委員会に対して直接、救済を申し立てる制度だ。女性差別撤廃条約については、付属する1999年の選択議定書で制度が設けられた。
条約の締約国189カ国のうち115カ国が既にこの議定書を批准し、制度を受けれている。委員会は今回、日本政府の対応を、時間がかかり過ぎていると指摘し、議定書批准の障壁を速やかに取り除くよう求めた。
ほかにも、国際人権規約や人種差別撤廃条約をはじめとする人権条約はそれぞれ、個人通報の制度を置いている。日本は各条約を批准しながら、個人通報については一つも受け入れていない。
政府は理由として、国内の司法制度と関連して問題が生じる恐れがあると説明する。関係省庁による研究会を設けているというが、いつになっても結論は出ず、非公開の会合で何が検討されているのかさえ定かでない。
2009年からの民主党政権下では、受け入れに向けた動きがあり、子どもの権利条約の個人通報制度を定める選択議定書の共同提案国にもなった。自民党が政権に復帰して以降、機運はしぼんだが、女性差別撤廃条約をめぐって、地方から声が広がっている。
全国のおよそ350自治体の議会で、選択議定書の批准を求める意見書が採択されたという。とりわけ県内は、市民らの働きかけで県議会を含む70議会で可決され、県内全自治体の9割に上る。
国際条約によって人権を確保するための重要な制度であり、当事者の救済にとどまらず、国内の人権状況の改善を図る上で有益だ。通報を踏まえて条約委が示す見解は、司法の独立を脅かすのではなく、人権のとりでとしての司法の役目を補い、支える。
背を向ける理由はなく、たなざらしのままにしてはならない。国会が動き、すべての人権条約について、個人通報制度の受け入れに必要な手続きを取るべきだ。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月11日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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