《社説②・12.19》:NHK議事録公表 自ら検証する責任果たせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.19》:NHK議事録公表 自ら検証する責任果たせ
6年を経てようやくNHKが経営委員会の議事録を公表した。公共放送の根幹を揺るがす番組制作への介入について、NHKは自ら徹底して検証する責任を果たさなければならない。
かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組をめぐり、2018年に経営委が会長を厳重注意した問題だ。元職員らが議事録の開示を求めた裁判で和解が成立し、ホームページで一般に公開した。
日本郵政グループ側から抗議を受けた経営委が、その意を体するように番組の制作に介入した。会長は事実上の謝罪文を郵政側に届け、続編の放送は延期された。
経営委はNHKの最高意思決定機関として、会長をはじめ執行部を監督する権限を持つ。ただし、個別の番組に干渉することを放送法は明確に禁じている。
放送による言論・表現の自由を確保するため、番組制作を担う現場の自主自律は何よりも重んじられなければならない。権限を逸脱し、現場を威圧した経営委は重大な責任を免れない。
放送法はまた、経営委の議事録を遅滞なく公表することを義務づけている。にもかかわらず、公表しない前提だったとする内輪の申し合わせを盾に、断片的な議事概要を示すにとどめた。
強い権限を持つ経営委の議論と判断には透明性が欠かせない。第三者委員会は繰り返し、全面開示の答申を出していた。それでもなお議事録の公開を拒んだ経営委の姿勢は、放送法をないがしろにしたと言うほかない。
NHKは情報開示の請求に応じる形で、発言の「粗起こし」とする文書を21年に開示したものの、手続きを踏んだ議事録ではないとして、一般には公表してこなかった。裁判は、録音データの開示を命じた東京地裁の判決に対し、NHK側が控訴していた。
会長への厳重注意を主導したのは、当時の石原進委員長と森下俊三委員長代行だ。とりわけ森下氏は、「取材が極めて稚拙」「作り方に問題がある」といった番組批判の発言を重ねている。
制作現場への不当な介入によって公共放送の自主自律が揺らぐことは、知る権利を脅かし、民主主義の基盤を危うくする。森下氏らが既に退任したからといって、終わったことにはできない。
経営委の誤りを検証し、視聴者に明らかにすることは、NHKの責務だ。この上、頬かむりを続けるなら、放送界が設けた「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が役割を果たす必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月19日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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