【こちら特報部・01.01】:〈新年に寄せて〉:「日常」守る不断の努力を 特別報道部長・中山洋子
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【こちら特報部・01.01】:〈新年に寄せて〉:「日常」守る不断の努力を 特別報道部長・中山洋子
東京・表参道の老舗「山陽堂書店」は昨年2月からレジ横で、小さな缶バッジを販売しています。元日の能登半島地震で全壊した石川県珠洲市の「いろは書店」のオリジナルバッジです。
山陽堂書店の遠山秀子さん(64)が2023年10月に珠洲市であった奥能登国際芸術祭を訪れたとき、展示会場近くのいろは書店に立ち寄った縁で、ゆるやかな交流を続けてきました。
地震で店舗が倒壊したいろは書店ですが、新学期の子どもたちに教科書を届けるため、3月には仮店舗で営業を再開。「街の本屋さん」が守り続ける文化の灯は、傷ついた地域を照らします。
東京からエールを送る山陽堂書店もまた、街にあり続けることで地域の歴史をつなぐ書店です。
東京最後の大規模空襲となった1945年5月25日の「山の手空襲」で、表参道一帯は炎に包まれました。その夜、逃げ遅れた人々を受け入れ、約100人の命を救ったのが3階建ての山陽堂書店でした。
遠山さんの伯母の清水浜子さん(101)も炎の夜を生き延びた一人です。「窓の外で、人が火だるまになって転がっていくのが見えた。どうすることもできなかった」とつらい記憶を語ってくれました。店内では被災した人々がバケツリレーで地下の井戸水を本にかけ、火が燃え移るのを防いだそうです。翌朝、表参道には焼け焦げた遺体が折り重なっていました。
東京五輪のため青山通りが拡幅され、店舗は3分の1に削られましたが、今も同じ場所で書店の灯を守り続けています。2011年にはギャラリーを併設し、毎年、5月25日前後には地域の歴史を語り継ぐ展示も続けています。「いまも地続きで歴史はつながっている」と遠山さんは言います。
2025年を迎えました。多くの命が奪われたあの戦争から80年。終わりの見えない戦争が再び世界を引き裂き、他者への憎悪を広げています。不安で身動きができなくなりそうなとき、能登と東京の二つの書店が、「日常」をあしたにつなぐ大切さを教えてくれます。「子どもたちに同じ体験はさせたくない」と願い、「平和国家」の礎を一歩一歩踏み固めた先人たちの不断の努力も重なります。
誰もが大切にされる「日常」を守る小さな勇気の轍(わだち)に、こちら特報部も続きます。今年も、ご愛読をお願いします。(特別報道部長・中山洋子)
なるほど!
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【こちら特報】 2025年01月01日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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