【社説①】:IS指導者死亡 テロの脅威は消えない
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:IS指導者死亡 テロの脅威は消えない
トランプ米大統領は過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者バグダディ容疑者が死亡したと発表した。
米軍がシリア北西部で急襲作戦を実行し、追い詰められたバグダディ容疑者は体に巻いた爆発物を使って自爆したという。
トランプ氏は「世界はずっと安全になった」と成果を誇った。しかし指導者の死が過激派組織の終わりを意味するわけではない。
ISの底流にあるイスラム過激思想は世界各地にまん延しており、欧州、アジアなど他地域にまでテロを拡散させた。
過激派組織は紛争地に巣くう。泥沼の内戦が続くシリアをはじめ中東地域の安定が図られなければ、テロの根絶はない。
ISの源流は、イラク戦争で反米感情が高まる中、台頭した過激派組織にある。シリア内戦に乗じて勢力を伸ばし、2014年にはイラク、シリアにまたがる地域を「領土」とする国家を宣言した。
外国人を人質にとり、斬首して殺害する映像を公開したり、異教徒の女性を「性奴隷」として扱ったり、ISは過激派組織の中でもその残忍さで際立ってきた。
湯川遥菜(はるな)さん、後藤健二さんの日本人2人も殺害された。バグダディ容疑者やISの卑劣な行為が許されないのは言うまでもない。
だがISの前身組織を率いたザルカウィ容疑者、国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者はともに米軍に殺害されたが、テロは繰り返されてきた。
今後、バグダディ容疑者の後継者が現れる可能性もある。
トランプ氏は先にシリア北部からの米軍撤収を表明し、IS掃討に貢献したクルド人勢力を見捨てたと批判された。
直後、クルド人勢力を敵視するトルコがシリアへ越境攻撃を仕掛け、大勢のクルド人が死傷した。
そればかりか、混乱収拾にロシアが介入したことにより、米国内では中東での自国の影響力を低下させたとの見方が強まっていた。
トランプ氏は来年の大統領選に向けて自身への批判をかわすことだけを考え、急襲作戦に踏み切ったのではないか。
ISは米ロの掃討作戦で一時壊滅状態となったが、米国防総省は今年8月「シリアで復活しつつある」との報告書を公表している。
腐敗や差別、貧困が「テロの温床」となってきた。武力だけで過激派組織を壊滅させるのは難しい。米ロなど関係国が和平の実現に協力していかなければならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年10月29日 05:05:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。