路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:週のはじめに考える グレタとカッサンドラ

2019-10-28 06:10:36 | 【地球温暖化・温室効果ガス・排出量取引・国連条約COP・IPCC・海水温上昇

【社説①】:週のはじめに考える グレタとカッサンドラ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:週のはじめに考える グレタとカッサンドラ 

 大通公園を歩きながら、かう考へた。安全を優先すれば理屈が立つ。気温を考へれば頷(うなず)ける。準備の急を思へば心配だ。とかくに酷暑は御しにくい…。

 いや、無理やりな『草枕』冒頭のまねごと、失礼しました。国際オリンピック委員会(IOC)が突如、東京五輪のマラソン、競歩競技の会場変更を打ち出した直後に、たまたま札幌を訪ねる機会があったのです。

 東京都にはなお別案もあるようですが、もし札幌になるなら、コースは例年行われている北海道マラソンのそれが基になるとか、札幌ドームが発着点になるとか、臆測が飛び交っています。

 ◆夏季五輪→冬季五輪

 北海道マラソンで発着点になるのが大通公園。レースのスタートの際にはカウントダウンが表示されるというテレビ塔を見上げながら、世界のトップランナーが北の大地の冷涼な空気を切って疾駆する様を思い浮かべてみます。確かに東京に比べれば夏は涼しい。選手もずいぶん走りやすかろうとは思いました。

 もっとも実際には既に十月も下旬、もう、上着を着ていても寒いくらいで、あちこちで、初雪の前触れともいわれる雪虫も盛んに飛んでいました。

 寒いのも道理、考えてみれば札幌は一九七二年に「冬季五輪」を開催したところです。今回の一件とは、つまり、「夏季五輪」の競技が「冬季五輪」の地に移動するという話。

 かつてどこかで見た、ある種の列島地図を思い出しました。確か果樹の…。

 後で調べてみて、多分これだと思ったのは、十年以上前に農研機構がまとめた、リンゴとウンシュウミカンの「栽培適地移動予測」でした。

 ◆リンゴ産地→ミカン産地?

 赤で示されたリンゴの栽培適地(年平均気温が七~一三度)の分布地域は、当時と二〇六〇年代の予測を比べると、かなり北へと移動します。九州など西日本にも大きく広がる現在の適地の赤はすっかり消えうせ、長野県中部辺りが南限に。逆にウンシュウミカンの適地(同一五~一八度)は西日本の太平洋岸など限られたエリアから、ぐんと北へと広がり、新潟や東北にまで及んでいます。

 予測当時から十年以上たち、どこまで進んだのかは分かりませんが、じりじりと移動は続いているでしょう。この五月には、現在の北限より北の福島県で露地ミカンの試作が始まったことなどを、日本農業新聞が「かんきつ産地 北へ」と題した記事で伝えていました。リンゴ農家がミカン農家に変わる-。どこかの時点で、そんなことも起きるのかもしれません。ちょうど、夏季五輪の競技が冬季五輪の地で行われるみたいに。

 移動と言えば、サンマのことも思い浮かびます。今秋ほど、サンマが話柄になった秋はありますまい。「食べた」という者あらば、羨望(せんぼう)とも猜疑(さいぎ)ともつかぬ「え、生ですか?」という反応があったりして、まあ、まるで高級魚の扱いです。

 ご案内の通り、サンマは記録的な不漁なのです。例年の漁場でのあまりの不調に、遠い海域にまで船を出した漁船が転覆、八人の死者・行方不明者が出るという痛ましい事故も起きました。

 北海道東方沖の海水温の上昇でサンマの漁場が移動したことも要因では、といわれています。それだけでなく、マラソン会場の移動も、果樹の適地の移動も、背景にあるのは、やはり例の地球温暖化。甚大な被害をもたらした15号や19号など、昨今の台風の強大化もしかりです。

 わが国の、ほんの最近のことだけでも、かように温暖化の深刻化を示す事態が起きているのです。これは、もう自然のサインなどという言い方では控えめすぎる。警告そのもの、でしょう。

 響いてくるのは、これも最近、国連の気候行動サミットで世界中の大人をしかりつけたスウェーデンの少女グレタさんの声です。「あなた方は、私たちの声を聞いている、緊急性は理解している、と言います。しかし、私はそれを信じたくありません。もし、この状況を本当に理解しているのに行動を起こしていないのなら、あなた方は邪悪そのものです」

 ◆少女と王女の抗議

 なぜ警告を信じ、行動しないのかといらだつ彼女に、いささか突飛(とっぴ)ですが、ギリシャ神話に登場するトロイアの王女カッサンドラが重なりました。予言の力を与えられたのに、誰にも信じられないよう呪いをかけられた予言者-。

 あの「木馬」が破滅につながると予言し、罠(わな)だと抗議した王女に誰も耳を貸さなかったトロイアはその後、どうなったか…。私たちはグレタさんをカッサンドラにするわけにはいきません。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月27日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【筆洗】:失敗が偶然によって思わぬ大発見や成功につながるということはよくある。

2019-10-28 06:10:32 | 【水産資源・海洋環境・漁業・水産加工・缶詰・調査捕鯨・鰻・鮪・鮨・回転寿司】:

【筆洗】:失敗が偶然によって思わぬ大発見や成功につながるということはよくある。

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【筆洗】:失敗が偶然によって思わぬ大発見や成功につながるということはよくある。

 インドを目指したバルトロメウ・ディアスは嵐に巻き込まれ、引き返す途中、アフリカ大陸の喜望峰を発見したし、コカ・コーラは痛み止めシロップを作ろうとして失敗した結果、生まれたと聞く。災い転じて福となす。結果オーライ。こういう話は聞いていて勇気づけられる▼国内では唯一、駿河湾で水揚げされるサクラエビにもそんな逸話があるらしい。歴史は意外と浅い。一八九四(明治二十七)年十一月のある夜。静岡県由比町(現・静岡市)の漁師がアジ漁に出た▼いざ操業という段になってカンタと呼ぶ網につける浮きを忘れてきてしまったことに気づく。今さら戻るわけにはいかない▼しかたなく、その夜はカンタなしで網を入れたところ、思いがけずサクラエビの大漁に恵まれた。いつもより深い場所に網が入ったためらしい。以来この漁法が定着し、盛んになっていく▼幸運で発見された漁の行く末が心配である。サクラエビの深刻な不漁が続く。秋漁が二年ぶりに解禁されたが、体長制限付きの漁でもあり、取れ高はあまり期待できないだろう。地元の水産加工業者には廃業も検討せざるを得ないという寂しい声が出る▼<さくらえび由比蒲原の小春かも>和田祥子。不漁という「災」をもう一度、「福」へと転じさせる手はないものか。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【筆洗】  2019年10月27日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【首相の一日】:10月26日(土) 

2019-10-28 06:10:28 | 【政策・閣議決定・予算・地方創生・能動的サイバー防御・優生訴訟・公権力の暴力】

【首相の一日】:10月26日(土) 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【首相の一日】:10月26日(土)  

 【午前】8時32分、公邸から官邸。51分、台風19号非常災害対策本部会議。9時25分、東京・信濃町の慶応大病院。人間ドック。

 【午後】2時22分、東京・富ケ谷の私邸。 

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政局・首相の一日】  2019年10月27日  06:10:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:災害ごみ/生活再建へ広域処理急げ

2019-10-28 06:00:55 | 【災害・地震・津波・台風・竜巻・噴火・落雷・豪雪・大雪・暴風・土石流・気象状況】

【社説】:災害ごみ/生活再建へ広域処理急げ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:災害ごみ/生活再建へ広域処理急げ 

 台風19号の被災地で、水に漬かった家具類や電化製品など災害ごみの処理が大きな問題となっている。

 浸水範囲などに基づき環境省が予測するごみの量は数百万トンと、昨年の西日本豪雨の約190万トンを上回る。被災地近くの仮置き場で集約し処理施設などに搬出するが、すでに仮置き場が満杯になり、放置されたごみも少なくない。

 小泉進次郎環境相は、仮置き場からの搬出を年内に終える意向を示した。悪臭や火災の発生など、処理が滞れば被災者の生活環境にも大きな影響を及ぼす。

 自治体単独で処理する既存の枠組みを脱し、自治体同士の連携や民間処理業者の活用に向け、県や国が積極的に支援する必要がある。

 19号上陸から2週間となったが、浸水世帯からの災害ごみの搬出はまだ緒に就いたばかりだ。

 昨年の西日本豪雨で約6千世帯が被災した岡山県倉敷市は、発生したごみ35万トンのうち10万トン強はまだこれから処分場に運びこまれると試算している。今回の被災地も、処理完了には数年が見込まれる。

 浸水は広範囲にわたるだけに、県域を越えた広域処理も考えたい。

 過去には実例がある。24年前の阪神・淡路大震災で発生した可燃性の廃棄物は、14%が兵庫県外で焼却された。8年前の東日本大震災では岩手、宮城両県の可燃性廃棄物の17%が全国に運ばれた。

 今回、福島県内の廃棄物は県内5自治体と隣の新潟県が受け入れ可能と表明した。宮城県なども広域処理について関係市町の意向を確認中だ。被災地支援の一環として、多くの自治体が協力してほしい。あらかじめ自治体間で受け入れ協定を結んでおくことも重要だ。

 国は自治体に対して、災害ごみの集め方や仮置き場の候補地を定める災害廃棄物処理計画の策定を求めている。しかし人員不足などで未策定のケースも少なくない。

 今後は気候変動などにより災害の多発が指摘される。混乱の中で仮置き場を探すのが容易ではないのは明らかである。

 例えば赤穂市は市内に工場を構える住友大阪セメントと、災害時には事業所の敷地内に廃棄物の仮置き場を設ける協定を結んでいる。私有地も含めて、事前に候補地を決めておく必要がある。

 阪神・淡路では1500万トン近い災害ごみが発生し、処理が済むまで3年を費やした。南海トラフ巨大地震では全国でその20倍のごみの発生が予測されている。

 地域の復旧を左右する重要な柱と位置づけ、自治体は平時のうちにごみ対策を講じておかねばならない。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月28日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【正平調】:イギリスの聖職者で歴史家のトーマス・フラーに、こんな言葉がある。

2019-10-28 06:00:50 | 【学術・哲学・文化・文芸・芸術・芸能・小説・文化の担い手である著作権】

【正平調】:イギリスの聖職者で歴史家のトーマス・フラーに、こんな言葉がある。 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【正平調】:イギリスの聖職者で歴史家のトーマス・フラーに、こんな言葉がある。

 「閉じられた本は塊でしかない」。たしかにどんな魅力的な百科事典もページを繰らなければ、ただの重たい紙の束だろう◆明石港にひっそりと立つ旧灯台も今は「閉じられた本」のようだ。明石海峡大橋と淡路島をのぞむ絶景にあるが、無粋なフェンスで囲まれ、周囲には違法駐車とごみがあふれている。現存する石造りの灯台では日本最古というのに。国の登録有形文化財でもあり、「なぜ」の思いが消えない◆正式名称は波門崎(はとさき)灯籠堂。江戸時代に5代明石藩主が建てたとされる。昼は行き交う船の目印になり、夜は常夜灯となって船を誘導した。想像するだけでロマンチックな夜景が目に浮かぶ◆聞けば、旧灯台は明石市が管理するが、明石港の管理は兵庫県だから、一体的な整備が進まないのだという。妙な縄張り意識は横において、互いに知恵を出し合えないものか◆文化財保護の専門家が本紙で魅力的な提言をしていた。「灯籠に明かりをともし、当時の雰囲気を再現すれば観光スポットとしての存在感も増すのではないか」と◆閉じられた本は開かれるのを待っている。ページを繰れば未来をともす光が見えてくる。宝の持ち腐れにはしたくない。2019・10・28 

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【正平調】  2019年10月28日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:一部損壊の救済/個々の被害に支援の道を

2019-10-28 06:00:45 | 【災害・地震・津波・台風・竜巻・噴火・落雷・豪雪・大雪・暴風・土石流・気象状況】

【社説】:一部損壊の救済/個々の被害に支援の道を

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:一部損壊の救済/個々の被害に支援の道を 

 台風15、19号の暴風や水害による住宅被害は計11万棟を超えた。内閣府は災害救助法に基づく応急修理費の支援制度に関し、一定の要件を満たす「一部損壊」を対象に加えると告示した。最大30万円が支給される。

 これまでは原則として損壊割合が20%以上の「半壊」と「大規模半壊」が対象で、それに満たない「一部損壊」は自費での修理が前提だった。10%以上の損壊にも拡大する恒久的な措置は一歩前進といえる。

 9月の台風15号では、約4万棟の住宅被害の約9割が一部損壊と判定されたが、屋根の破損による雨漏りなどで住めなくなった住宅が多く、対象拡大を求める声が上がっていた。

 約7万4千棟の被害が出た台風19号も一部損壊と判定されることが多い「床下浸水」が多数を占める。カビの発生などによる傷みは外観では分かりにくく、修繕費がかさむ場合もある。

 適用を受けるには自治体が発行する罹災(りさい)証明書が必要だ。確実に支援が届くよう、丁寧に判定作業を進めてもらいたい。

 一方、阪神・淡路大震災を契機に創設され、最大300万円を支給する被災者生活再建支援法の要件は原則「全壊」「大規模半壊」以上のままだ。

 水害では床上1メートル以上の浸水などに限られ、今回の台風19号では大半が対象外となる可能性がある。これでは、浸水が浅くても家財が水につかるなどで多額の損害を抱えた世帯は支援を得られない恐れがある。

 被害規模などによる支援の線引きは、常に不公平感がつきまとう。自治体が独自の救済策を取る場合もあるが、内容にばらつきがあり、同じ災害で支援に差が出る事態を招いてきた。

 全国知事会は、支援法についても半壊への対象拡大や支援金の増額を国に提言している。地方の意見を反映し、具体的な議論を急がねばならない。

 災害は激甚化し、複合的な被害をもたらしている。そのたびに被災者支援の制度からこぼれ落ちる被災者を生んできた。

 住宅の損壊割合だけを物差しとする公的支援のあり方を総合的に見直す必要がある。一人一人の生活再建プロセスに沿い、きめ細かい支援が可能な制度を構築しなければならない。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月27日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【正平調】:もしあなたが劇団のリーダーだったら、どうするだろう。

2019-10-28 06:00:40 | 【学術・哲学・文化・文芸・芸術・芸能・小説・文化の担い手である著作権】

【正平調】:もしあなたが劇団のリーダーだったら、どうするだろう。 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【正平調】:もしあなたが劇団のリーダーだったら、どうするだろう。

 公演が目前に迫っている時、自宅や稽古場、さらに大道具までもが火事で灰になったら◆神戸の老舗劇団「道化座」を率いていた須永克彦さんがその立場だった。亡くなって1カ月。読み返した記事でもっとも印象深かったのが阪神・淡路大震災に遭った直後の話である。須永さんはどうしたか◆何もかもを失い、公演の主催者に無理だと伝えようとした。するとこう言われた。「須永さんも団員さんも元気やないですか。何でできませんのん。ぜひやってください」。しおれる心にしみこむ一言だった◆徹夜の準備を重ねて、予定通りに公演を終えた。後日、取材に対して須永さんは答えている。建物はなくても、人さえいたら演劇は続けられる。「芝居の心は焼けてなかった」。演劇人らしい実にいい言葉である◆あの日、被災地にいた人は自分の役割は何だろうと考えたように思う。化粧品店の人は、疲れた女性に口紅をと話していた。だって、それだけでちょっと元気になるのやから、と。そして演劇人は舞台に立とうとした。誰かの心をぬくめられたら、と◆震災25年が近づく。焼けなかったものは何か、考えるのもいい。須永さんの残した言葉が耳元でそうささやく。2019・10・27 

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【正平調】  2019年10月27日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【正平調】:夜も更けて、お客が時間を尋ねた。下女が答えるには「もう12時で

2019-10-28 06:00:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【正平調】:夜も更けて、お客が時間を尋ねた。下女が答えるには「もう12時でございます」。

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【正平調】:夜も更けて、お客が時間を尋ねた。下女が答えるには「もう12時でございます」。

 それを聞いていた家のあるじ、森鴎外が叱りつけた。「もう12時とは何だ。まだ12時となぜ言わん」◆人間は2時間寝たら十分だ。そうも語っていたという鴎外の思い出を、そのときの客人、文芸評論家の内田魯庵が書きとめている。「もう12時」か、「まだ12時」か。はかる物差しは時と場合によりけりだが、たとえば最終電車の時刻はその一つだろう◆近畿エリアで最終電車の繰り上げを検討していると、JR西日本がこのほど明らかにした。午前0時よりあとの在来線ダイヤを見直すそうだ。三ノ宮駅でいうと、平日のその時間帯に発車する列車は14本に上る◆JRと乗客、双方の「働き方改革」を理由に挙げている。終電を早くして一晩に行える保守点検の量を増やせば、作業員は休日がとりやすくなる。また企業の時短が進んで、深夜の乗客も減ってきているという◆人手不足が叫ばれるコンビニ業界も「脱・24時間営業」の流れは止められそうにない。立場によって賛否はあれど、「まだ12時だ」の鴎外派より「もう12時だ」の声がだんだん強まっていくのはやむなしだろう◆もう一杯だけ-。いや、終電前倒しに備えて今夜はこらえておく。2019・10・26 

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【正平調】  2019年10月26日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:自衛隊中東派遣/苦肉の策に不安が深まる

2019-10-28 06:00:25 | 【防衛省・自衛隊・防衛費、大綱・沖縄防衛局・軍需産業・Jアラート・シェルター】

【社説】:自衛隊中東派遣/苦肉の策に不安が深まる

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:自衛隊中東派遣/苦肉の策に不安が深まる 

 米国にもイランにもいい顔をしたいという「苦肉の策」といえる。それ自体、日本の立ち位置の難しさを如実に表している。

 政府は、中東地域に自衛隊を新たに派遣する方向で検討を始めた。米国が各国に呼び掛ける有志連合構想を意識したのは間違いない。

 米国とイランは非難の応酬を続けている。日本が米主導の行動に加われば、友好国であるイランの反発は必至だ。そこで有志連合には参加せず、「調査・研究」を名目にした独自派遣という道を選んだ。

 これだと米国と共同歩調を取るような形は示せる。軍事行動ではないので、イランを刺激することもないだろうという苦慮が読み取れる。

 派遣場所も日本タンカーへの攻撃などで緊張が高まるホルムズ海峡を避け、アラビア半島南部のオマーンやイエメン沖を想定している。危険な場所となるべく距離を置きたいようだが、派遣の意図に首をかしげる国も多いのではないか。

 サウジアラビアの石油施設が攻撃されるなど、中東情勢は緊迫化する一方だ。こちらに武力行使の意図はなくても、戦闘に巻き込まれるなどの懸念はぬぐえない。

 政府は自衛艦1隻を現地に向かわせる方針とされるが、自衛隊は他国の軍隊とは違う。憲法に基づく「専守防衛」の厳格な制約があり、対応できる範囲は決して広くない。

 「調査・研究」の派遣だと、武器使用は攻撃された場合の正当防衛や緊急避難に限られる。日本船舶の警護活動もできない。

 現地の状況に応じて、任務を治安維持などの「海上警備行動」に切り替える方策は可能だ。それでも許されるのは警察的な行動で、武器の使用には一定の歯止めがかかる。

 現在、別の自衛艦1隻がアフリカ東部で民間船舶を海賊から守る行動を続けている。政府は海賊対策との連携も検討しているとされる。

 しかし今回の派遣先のアラビア湾南部は「海賊対処行動」を実施する状況にないとの見方は、政府内でも強い。なし崩し的な対応が今後、議論を呼ぶことは間違いない。

 「調査・研究」は自衛隊設置法で定められ、国会承認が不要で防衛相の判断で実施できる。国会に十分説明せずに踏み切る意図があるとすれば、厳しい批判は免れない。

 心配なのは、議論も準備も十分に煮詰まらない状態で現地に赴く、隊員たちの身の安全だ。家族をはじめとする関係者は、切実な不安を抱いているだろう。

 丸腰のような1隻の自衛艦だけ派遣して何ができるというのか。それよりも米国など関係国に対話の努力を強く促すべきだ。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月25日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【正平調】:皇太子さまからのプロポーズに、お返事をどう申し上げるの? 

2019-10-28 06:00:20 | 【皇室・天皇・褒章・皇后・皇太子・元号・宮家・皇室財産・皇族の戦争責任】...

【正平調】:皇太子さまからのプロポーズに、お返事をどう申し上げるの? 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【正平調】:皇太子さまからのプロポーズに、お返事をどう申し上げるの? 

 両親に尋ねられると、「それは秘密」、にこにこしながらそう答えたという。27年前の小和田家でのやりとりである◆「これはお受けするという意味だと分かりました」。父・恒(ひさし)さんと母・優美子さんが当時の文芸春秋のインタビューに答えている。時おかずしてお二人の婚約が報じられ、「雅子さん」は「雅子さま」となった◆天皇陛下が内外に即位を宣言した「即位礼正殿の儀」が終わり、海外からの賓客をもてなす行事が続いている。留学の経験がある陛下にとってみても、元外交官だった皇后さまの存在はさぞ頼もしいことだろう◆皇室に入ってからの雅子さまに、おつらい日々があったことは伝えられている。それだけにいま、柔らかな笑みを浮かべ、各国の要人を迎える晴れやかな姿がうれしくもある。とはいえ、どうぞ無理なさらずに◆外交官の職を辞することに迷いはありつつも「私の果たすべき役割は、皇室という新しい道で自分を役立てることではないか」。婚約会見で話されていたのを思い出す◆正殿の儀の当日も、記憶をたどればご成婚パレードのときも、降っていた雨は不思議とあがった。虹の懸け橋となるような皇室外交新時代の予感がする。2019・10・25 

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【正平調】  2019年10月25日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:企業の浸水対策/被害想定を備えに生かせ

2019-10-28 06:00:15 | 【経済・産業・企業・起業・関税・IT・ベンチャー・クラウドファンティング

【社説】:企業の浸水対策/被害想定を備えに生かせ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:企業の浸水対策/被害想定を備えに生かせ 

 猛威を振るった台風19号は、水害に対する企業の備えが不十分な現状を改めて浮き彫りにした。

 車両120両が水に漬かった北陸新幹線が象徴的だ。長野市の車両基地はハザードマップで深さ10メートル以上の浸水が想定されていた。

 ところがJR東日本は車両の避難計画を立てなかった。台風は長野付近を直撃しない、との気象予測を前提にしたためだ。

 甘い見込みは外れ、建物内にいた36人は浸水で一時孤立した。水没した車両は廃車の可能性がある。事態は深刻だ。

 一方、栃木県の東北新幹線の車両基地では車両を他県に避難させていた。1998年8月の台風で車両基地のポイントが冠水し、列車が出せないトラブルが起きた経験が生きたという。

 新幹線でも地域によって明暗が分かれた形だ。北陸新幹線は危機感があまりにも薄かったといえる。

 運営するJR東などは、問題点を徹底的に洗いだし、ハード、ソフト両面で速やかに災害対策に反映させねばならない。全国の鉄道事業者も対策の点検を急ぐ必要がある。

 異常気象により、「数十年に1度」の大災害が頻繁に起きるようになった。昨年の西日本豪雨や台風による高潮被害は記憶に新しい。

 にもかかわらず、地震と比べて水害への対策ができている企業はまだ少ない。災害への備えは従業員を守り、ひいてはビジネスを通して地域経済を守ることにもつながる。各企業はこの機会に自社の備えを再点検してほしい。

 過去の経験に頼るだけでは十分な対策は望めない。

 第一歩として自治体が公表するハザードマップの積極活用を勧めたい。台風19号では大雨被害を想定したハザードマップと実際の浸水地域がほぼ一致した。

 事務所や工場が浸水想定地内にあれば、盛り土や止水板などの対策が考えられる。すぐに改修するのが難しければ、製造設備を2階より上に置くといった対応も有効だ。

 非常時の業務の継続や早期復旧のための手順を盛り込んだ事業継続計画(BCP)についても、見直しや平時の訓練が求められる。

 兵庫県は企業がBCPを策定する際の経費補助に乗りだした。専門家から助言を受けたり、関連資料を購入したりする費用を1事業所当たり最大5万円補助する。

 民間調査会社によると、BCPを策定済みの県内企業は15・2%。全国でも14・7%にとどまる。

 災害への対応力が企業存続を左右しかねない。経営者には多様化するリスクに向き合ってもらいたい。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月24日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【正平調】:伸びる選手はどこかが違う。

2019-10-28 06:00:10 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【正平調】:伸びる選手はどこかが違う。 

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【正平調】:伸びる選手はどこかが違う。

 歩き方だけでも、とプロゴルファー森口祐子さんがテレビ中継の解説で話していた◆大切なことは、リズム良く歩いてリズム良く打っているか。だから初めて宮里藍さんのプレーを見て感心したのは「歩き方のきれいな子だなあ」。見る人が見れば、これだけで「ウーン」なのだ◆19歳のアマ・古江彩佳(あやか)さんがプロを打ち破り、女子ゴルフツアーで優勝した。記事を読んで思い出したのが、森口さんの持論だ。歩き方で見分ける力なんてないが、古江さんの最終18番は素人も「ウーン」である◆2位に差をつけていた。手堅く終わっていいのに、最後まで果敢にピンを攻めて、結局ボギーをたたいてしまった。戦い終えて、彼女はこう言った。「逃げることはしたくなかった」。なんと意志の強いこと◆間もなく「古江プロ」になる。これも森口さんの話だが、プロって何だろうと考えての結論は「勝ち負けにかかわらず、いつも変わらない姿勢で情熱や努力を継続できること」。そんな厳しさが求められる世界だ◆神戸の長田中から滝川第二高。伝えてきた本紙記事の中に小学生大会で優勝した後の一言がある。「昨年は2位。今回は優勝を狙ってた」。それから7年、プロ初勝利の一言を楽しみに待とう。2019・10・24 

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【正平調】  2019年10月24日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:米中貿易摩擦/これで矛を収められるか

2019-10-28 06:00:05 | 【中国・共産党・香港・一国二制度・台湾・一帯一路、国家の個人等の権利を抑圧統治】

【社説】:米中貿易摩擦/これで矛を収められるか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:米中貿易摩擦/これで矛を収められるか 

 米国と中国が互いに高関税をかけ合う貿易摩擦に、改善の兆しが見え始めている。今月中旬、閣僚級協議を経てトランプ大統領が「第1段階の合意に達した」と発表した。

 追加関税の応酬は両国のみならず、世界経済全体にもダメージを与える。合意しやすい部分だけを取り上げて、実績を示すことで首脳同士の思惑が一致したと言える。

 一方でトランプ氏は、第2段階に向けた協議を早急に開始すると強調した。

 思い起こすのは今年6月、習近平国家主席との会談で協議継続を決めながら、わずか1カ月弱で手のひらを返したように追加関税に転じた経緯だ。このまま米中が矛を収められるのか、注視する必要がある。

 今回の合意では、中国が米国産農産物の輸入を増やす。その代わりに米国は、15日に予定していた制裁関税引き上げを見送る。

 中国側は、今年になり既に米国産大豆2千万トンを購入し今後もさらに拡大するとアピールしている。「素晴らしいディール(取引)」だとトランプ氏も自画自賛である。

 留意すべきは、合意内容に盛り込まれていない点だ。

 米国はこれまでの協議で、国有企業への補助金や知的財産権侵害、技術移転の強要などについて、中国に是正を求めてきた。日本や欧州各国も同様に問題視しているが、今回の合意で、米中から具体的な言及はなかった。

 国と企業が表裏一体となった独自の経済体制に、米国が厳しい視線を向けているのは間違いない。安全保障上の脅威を理由に中国通信機器大手への輸出禁止措置を発動したのも、その一環と言える。

 中国にとってはいずれも国家統治の根幹に関わるだけに、米国との合意点を見いだすのは決して容易ではないだろう。

 両国は11月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて署名するため、合意内容の文書化を急いでいる。細部を詰める段階で、改めて意見が衝突する可能性もゼロではない。

 懸念するのは、そこでトランプ氏が再び強硬姿勢に転じることだ。

 国際通貨基金(IMF)は、2019年の世界経済の成長予測を下方修正した。リーマン・ショック後では最も低く、その要因には米中摩擦を挙げている。

 両国が初めて追加関税を発動して1年3カ月が過ぎた。米国の貿易赤字削減にも中国の構造改革にも大きな進展がないまま、世界経済が失速の渦に巻き込まれていく。

 その影響は自国にも跳ね返ることを、米中の首脳は自覚するべきだ。

 元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月23日  06:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説①】:「辺野古」県敗訴 国の地方軽視許すのか

2019-10-28 05:05:55 | 【米国・在日米軍・地位協定、犯罪・普天間移設・オスプレー・安保】

【社説①】:「辺野古」県敗訴 国の地方軽視許すのか

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:「辺野古」県敗訴 国の地方軽視許すのか 

 米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設を阻止するため、沖縄県が国を相手に起こした訴訟で、福岡高裁那覇支部は県の請求を却下した。

 玉城デニー知事が昨年10月に就任後、辺野古移設に関連して国を訴えた裁判で最初の判決だった。

 県は、埋め立て承認を撤回した県の処分を国土交通相が取り消した裁決は違法だとして、裁決の取り消しを求めていた。

 そもそも沖縄防衛局が推し進める移設工事について、同じ内閣の一員である国土交通相が地方の決定を覆す形で容認したのは公平性を欠こう。

 原告が裁判官を兼ねるようなやり方であり、玉城氏は「自作自演」と批判してきた。

 だが判決は国交相の裁決について「地方自治法上、訴訟の対象になり得ない」として、県の訴えを門前払いした。

 国が身内同士で結論ありきの審査を進めることを司法が追認していいのか。対等であるべき国と地方の関係を揺るがしかねない。

 県が上告する方針を示しているのは当然だろう。

 国交相の裁決は行政不服審査法に基づく。ただこの法律は「国民(私人)の権利救済」が目的だ。

 工事主体の沖縄防衛局は私人の立場で申し立てたが、行政機関が私人というのは無理があろう。

 県は制度の乱用であり、防衛局は審査請求できないと主張した。

 ただ判決では、移設を巡る埋め立ては民間業者も担う事業であり、県はそれと同じように防衛局への許認可を判断したのだから、防衛局にも民間人と同じ権利があると認めた。

 行政不服審査法を国が利用できるとする司法判断は、今回が初めてである。しかし、行政法学者からは、国のやり方は法の趣旨を逸脱するとの指摘が出ている。

 三権分立の下で、司法には行政機関の行き過ぎに歯止めをかける役割がある。上告審では、地方の決定を軽視した裁決の不公平性などについて、改めて徹底審理してもらいたい。

 辺野古沿岸部では軟弱地盤の存在が明らかになり、現計画では対応できない。移設反対の民意も繰り返し示されている。国が埋め立てを強行し続けることに、もとより正当性はない。

 県は別の訴訟で、埋め立て承認撤回の正当性も問うている。

 今回の高裁判決をもって、埋め立てにお墨付きを与えたことにならないのは、言うまでもない。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月28日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説②】:いじめ54万件 深刻化防ぐ介入が必要

2019-10-28 05:05:50 | 【学校等の陰惨ないじめ・暴力・体罰・自死・家庭での虐待・不登校・児相】

【社説②】:いじめ54万件 深刻化防ぐ介入が必要

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:いじめ54万件 深刻化防ぐ介入が必要 

 全国の国公私立小中高校などで2018年度に把握したいじめが、前年度から約3割増えて54万件を超え、過去最多を更新した。

 道内も例外ではない。前年度から6割増え、2万件を超えた。

 調査した文部科学省は、学校が積極的に報告するようになった結果とみている。だが、これはいじめ解消の出発点にすぎない。

 調査の狙いは自殺や不登校などの「重大事態」を防ぐため、問題の早期発見を促すことにある。

 だが、自殺者総数が減る中、子どもの自殺は増え続けている。小中学生の不登校も16万人に上る。

 なぜ歯止めがかからないのか。国や教育委員会は事例を掘り下げ、現場を支えなければならない。

 いじめは人口千人当たり40・9件に上る。現在の集計方法になってからの6年間で3倍に増えた。

 いじめ防止対策推進法で、軽いからかいも受け止め方次第でいじめと見なすようになってきた。

 それでも認知件数ゼロの学校がなお2割ある。地域差も残っており、指導の強化を求めたい。

 問題は把握後の対応である。

 学校側が、指導によりいじめが解消したと判断したものは9割に届かず、2年連続で低下した。

 逆に、いじめで心身に大きな被害を受ける「重大事態」は6年間で3割近く増え、602件に上る。適切に介入できないまま、深刻化していることが強く疑われる。

 自殺は332人で、前年度から急増した。いじめが原因とされたのは9人だが、6割近い「原因不明」の中に該当はなかったか。

 不登校にしても、いじめを理由にしたものが1%にも満たないというのは到底理解しがたい。

 教育機会確保法施行で、多様な学びの場が認められつつある。学校は子どもが学校を去らねばらなず、また死を選ぶ理由を真摯(しんし)に探り、改めていく必要がある。

 ところが、教育現場ではいじめの放置や隠蔽(いんぺい)は後を絶たない。

 神戸市では中3女子の自殺を巡り、いじめを訴える友人の手書きメモを市教委が隠蔽していた。

 同市立東須磨小では今月、中堅教員4人が後輩に暴力・暴言を繰り返していたことも発覚した。

 加害教員の一人はいじめ対策の担当者で、前校長は被害者にいじめの否定を迫ったといい、言語道断だ。学校の事なかれ主義が子どもに与える絶望は計り知れない。

 教員の若返りや多忙化など、学校の対応力も低下している。現場任せにせず、専門家も交えて学校に子どもの居場所を回復したい。

 元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2019年10月28日  05:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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