消費税増税と社会保障の「採決」をめぐって小沢派の対応が毎日毎日報道されている。消費税増税に反対票を投じた小沢派は民主党の「決定」に「造反」した輩として報道され、国民には、民主党の内紛劇として映るように仕組まれている。
そうしたトリックに対して、いくつかの世論調査が出され、国民の「世論」が形成されている。
29日、民主党国会議員の運動員がビラを駅頭で配っている時、大声で怒鳴っている「有権者」を見た。「小沢についていくな」と。ここに現在の政治の、ひとつの局面がでているように思う。
今回の民主党の内紛劇に対して、3党合意で消費税増税と社会保障の改悪に持ち込んだ自公の対応を問題にしないマスコミもおかしい。
自公は、民主党が小沢派を切らないのであるならば、民主党内のゴタゴタを解決しないなら、参議院では増税案の審議に入る前に内閣不信任を出す。そうして解散総選挙に持ち込むというのだ。
ともに悪政を決定しておいて、小沢派を切るか切らないか、それで内閣不信任を出すというのは、あまりに小沢派を高く買っているということだ。これでは小沢派切捨て解散総選挙となり、国民にはどのような選挙政策で選挙戦をたたかうのか。不思議なことが起こりそうだ。民自公は全く混迷してしまうのではないか?まさに自殺行為となると思う。
国民にとってはいい迷惑だ。政党助成金を含めて多額の税金が選挙で使われるからだ。
ま、「自民はダメ」だったから、「政権交代」「政権選択」を煽られて民主に期待が集まり、民主に投票した、一票一揆が起こった。しかし、その「民主もダメ」となり、民主を追及している「自民もダメ」という状況のなかで、何が喧伝されるか。それは明らかだ。
こうした状況にあって大飯再稼動反対で見せた「市民パワー」が、マスコミの情報操作を乗り越えて、どのように動くか、そこにかかっている。
大飯原発再稼動と同じように争点は明確だ。増税しなくても社会保障を充実させる、財政再建が可能な道は何か、それだ。
同時に、日米安保条約に基づいてオスプレイ配備を強行しようとうる日米政府にみるように、アメリカの言いなりの外交かどうか、だ。オスプレイの配備を強行するようであれば「米軍基地の閉鎖が問題になってくる」と仲井間県知事が森本防衛大臣に語ったことが象徴的だ。
現在の政治の矛盾はここまで来たということだ。
だが、確認しておく。小沢派が本当の意味で国民の立場に立っているかどうか、それは「否」だろう。だが、現局面で、悪政を前に進める勢力と対峙しているという点については、一致していく必要があるだろう。
では、「造反者」はどちらか、全国紙をみてみよう。
分裂騒ぎの民主 国民への造反者は誰か【東京社説】2012年6月29日
小沢一郎民主党元代表が反対し、撤回を求めた消費税増税法案。野田佳彦首相は「造反」議員らの厳正な処分を表明したが、公約破りは首相の方だ。どちらが国民に対する造反かを見極めたい。
二〇〇九年衆院選マニフェストを反故(ほご)にした首相が悪いのか、実現できない公約を作った小沢氏の責任がより重いのか。
民主党内ばかりか自民、公明両党からも厳しい処分を求める声が相次ぐ小沢氏の方が分は悪そうだが、公約に期待して民主党に政権を託した有権者は、野田氏の方にこそ問題ありと言いたいのではなかろうか。
有権者は「生活が第一」「官僚主導から政治主導へ」「税金の無駄遣い根絶」「緊密で対等な日米関係」など、自公時代とは違う政権の実現を目指して票を投じた。
もちろんそれらは難題だ。官僚機構や既得権益層の厚い岩盤を穿(うが)つのは容易でない。だからこそ政権交代という権力構造の歴史的変化に実現を託したのではないか。
民主党議員の多くは、それらの実現は難しいと言うが、どこまで死力を尽くしたのか。抵抗が強いが故に早々に諦め、増税路線になびいたと疑われても仕方がない。
できない約束を作った方が悪いという指摘もある。実現困難だと決め付けるのは早計だが、仮にできない約束だとしても、それを掲げて選挙に勝ったのではないか。
実現に努力するのは当然だし、できないと考えるなら、作成時に疑義を申し出るべきだった。納得できないのなら民主党以外から立候補すべきではなかったか。
公約破りの消費税増税を正当化するのは信義に反する。
小沢氏は、民主党を離れないように求めた輿石東幹事長に対し、消費税増税法案の撤回を求め、話し合いは平行線に終わった。
両氏はきょうにも再会談するが小沢氏らが新党結成に踏み切れば民主党が歴史的役割を果たせずに瓦解(がかい)する。残念だが、国民との約束を守れないなら仕方がない。
そうなれば、民主党は政権政党としての正統性を失う。首相は消費税増税法案成立を強行せず、衆院を早急に解散すべきだ。そのためにも違憲・違法状態にある衆院の「一票の格差」を是正する必要がある。
民主党が提出した一部連用制の導入案は複雑で、解散先延ばしが目的と疑われかねない。選挙制度の抜本改革は次期衆院選以降の課題とし、今国会では「〇増五減」案の実現を急ぐべきだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012062902000111.html
民主党分裂へ 首相は早期に体制を立て直せ(7月1日付・読売社説)
「3党合意を修正することはあり得ない」。野田首相が明言した。
首相は、相変わらず身勝手な主張を繰り返す小沢一郎元代表らと一刻も早く決別し、民主党の体制を立て直さなければならない。
首相が読売国際経済懇話会(YIES)で講演し、民主、自民、公明の修正合意で衆院を通過した社会保障・税一体改革関連法案について、「3党で作ったものは責任を持って参院で審議し、通すということだ」と強調した。
小沢氏は、法案採決で反対した後も「消費増税を阻止できるよう努力したい」と語っている。首相がこうした発言を明確に否定したのは当然である。
民主党内では、小沢氏と輿石幹事長が3度も会談し、何らかの形で事態打開を図っているため、造反議員が党内にとどまりながら国会の会派は別にする「会派離脱」案などが取り沙汰されていた。
これに対しても首相は、「あり得ない」とした上で、「選挙区で『消費税を引き上げるしかない』と頑張っている。隣では同じ党なのに『私は反対』と言う人がいるのはおかしい」とも語った。
党内が重要政策で割れている不正常な状態を放置すべきではない。首相は、造反議員への厳正な処分を急がねばならない。週明けの党役員会で方向性をはっきり打ち出してもらいたい。
問題は、処分のカギを握る輿石氏の態度である。自民党の大島理森副総裁は「首相と幹事長の意見の不一致がいろんな問題を起こしてきた」と批判している。
だが、首相は「自分を支える幹事長を信じている」と述べた。その信頼に応え、輿石氏ら党執行部は造反議員への処分手続きを粛々と進めることが肝要である。
小沢氏らは離党届を提出する方針だ。党の分裂は確実となった。輿石氏の説得工作は、もはや意味を失っている。
党内融和路線をこれ以上模索すれば、せっかく築いてきた自公両党との信頼関係を損なうことにもなりかねない。
今国会で民自公3党が協調して取り組むべき課題は、一体改革関連法案だけではない。
赤字国債の発行を認める特例公債法案や、衆院の「1票の格差」を是正するための選挙制度改革などの懸案が、残されたままとなっている。いずれも早期に決着させる必要がある。
「後退はない。揺るぎなく前に進む」。首相はその決意通り、結果を出すことが求められよう。
(2012年7月1日01時41分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120630-OYT1T01121.htm
小沢・輿石会談 無茶な要求には付き合えない(6月30日付・読売社説)
「離党カード」をちらつかせ、理不尽な要求を突きつける――。まさに「壊し屋」らしい手法だが、民主党執行部は断固拒否すべきだ。
民主党の小沢一郎元代表が輿石幹事長と3回にわたり会談し、社会保障・税一体改革関連法案を参院で採決、成立させるなら、自らのグループを率いて集団離党する考えを伝えた。
輿石氏は、翻意を求め、調整が続いている。小沢氏は週明けには結論を出したい意向という。
小沢氏の要求は、法案成立に政治生命を懸ける野田首相が到底容認できない、無茶なものだ。
問題なのは、輿石氏が、党分裂を回避しようと、何らかの妥協を検討していることである。
関連法案は、民主、自民、公明の3党合意に基づき、修正された。3党合意は、各党が譲り合ってまとめたもので、極めて重い。
小沢氏らが法案の衆院採決で反対したことは、3党合意への造反を意味し、自民、公明両党は強く反発している。それなのに、小沢氏を懐柔するために、民主党執行部が妥協するのは本末転倒だ。
小沢氏らの造反は、党執行部が「党内融和」の名の下、深刻な路線対立に目をつぶり、糊塗(こと)してきたツケにほかならない。党内の亀裂は、もはや修復不能である。
輿石氏が今すべきは、小沢氏に厳しい処分を下すことだ。
そもそも民主党の政権公約(マニフェスト)に固執し、「国民との約束を実行する」との小沢氏の主張には、正当性がない。
政権交代後、2年10か月近くになる。年間16・8兆円の財源捻出が可能としたマニフェストは完全に破綻している。小沢氏自身、幹事長を8か月以上務めながら、公約実現に動いた形跡はない。
今になって、「増税の前にやるべきことがある」「民主党は政権交代の原点に戻れ」などと唱えても、説得力のある行政改革や景気改善の具体策を明示しなければ、信用できるはずがない。
小沢氏は19年前に自民党を離党して以来、新生、新進、自由の各党の結成・解散を繰り返した後、民主党に合流した。政策より政局を重視する、強引で独善的な政治手法や、金権体質を今も引きずっている。
2006年4月、小沢氏は民主党代表に就任する際、「まず私自身が変わらなければならない」と大見えを切った。
だが、今回の離党に向けた動きは、小沢流の政治が何ら変わっていないことを裏付けている。
(2012年6月30日01時16分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120629-OYT1T01430.htm
民主党 茶番劇いつまで続けるか2012.6.30 03:56 (1/2ページ)[主張]
延々と続けられる茶番劇に、国民は怒りさえ覚えているのではないか。消費税増税法案の採決をめぐる民主党内の造反者処分問題である。
輿石東幹事長が29日も小沢一郎元代表と会談を重ねたが、平行線で終わった。小沢氏は法案成立の方針が変わらない場合、離党する意向も示している。
今国会成立に政治生命を懸ける野田佳彦首相との間で合意点を見つけることなど、最初から無理な話ではないか。
首相は「幹事長にお任せ」ではなく、直ちに造反者の除名など厳しい処分を打ち出す必要がある。小沢氏や支持議員も筋を通して離党すべきだ。
すみやかに混乱が収束されなければ、自民、公明両党と修正合意にこぎつけた「決める政治」も、再び後戻りすることになる。
28日以降、3度にわたって行われた会談で、小沢氏は消費税増税法案の撤回を求めた。問題は輿石氏が民放番組で「よりよい法案に仕上げていくのが参院の使命だ」と語ったことだ。法案の再修正が、小沢氏らの離党をとどめる条件として浮上しているとも受け止められた。
首相が即座に「再修正は常識的にあり得ない」と否定したのは当然のことだ。民主党の内輪もめを理由に、公党間の合意を見直すことなどあってはならない。
輿石氏は「除名などしたら党はどんどん分裂という流れになる」と、造反者への厳しい処分に否定的な見解も示してきた。だが、処分を甘くしたからといって、消費税増税をめぐる党内の意見対立が解消されるわけではない。
首相は自ら、処分の素案を輿石氏に示すとしている。しかし、厳しいものにはならないのではと、法案に賛成した若手議員らから反発を招いている。除名処分など、きちんとした決断ができなければ、首相の指導力はさらに低下してしまうだろう。
事態収拾に手間取っている民主党政権に対し、修正合意の当事者である自民、公明両党が反発しているが、短絡的行動は禁物だ。
輿石氏は週明けまで調整したいというが、いつまで続けるつもりか。首相は一刻も早くこの問題に決着をつけ、野党が求める衆参両院での予算委員会の開催などに応じ、関連法案の参院での審議入りを急がねばならない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120630/stt12063003570002-n2.htm
毎日社説:離党問題の混迷 けじめ無き政党の醜態毎日新聞 2012年06月30日 02時31分
消費増税法案など一体改革法案の衆院採決で事実上分裂状態に陥った民主党で小沢一郎元代表らの離党をめぐりこの期に及んでなお、内向きな駆け引きが続いている。
造反議員を除籍できない野田佳彦首相、さっさと離党しない小沢元代表、双方の締まりのなさにあきれる。歩み寄りの余地がないことは明らかだ。一日も早くたもとを分かつことが最低限の節度である。
政権の命運がかかるテーマで大量造反が起きた重大さが首相も小沢元代表もよくわかっていないのではないか。そう、勘ぐってしまう。
まず、解せないのが小沢元代表と輿石東幹事長の会談だ。造反議員の処分は首相と輿石氏に一任されている。本来は速やかに輿石氏が処分を伝え、小沢元代表らは離党など自らの決断を表明すべきだ。
ところが、輿石氏は党を割らぬよう要請し、小沢元代表は法案の撤回を要求している。「処分する側が逆に右往左往している」との批判が党内から出るのは当然だ。
増税法案に反対した小沢元代表らの主張は理解できない。一方で反対する以上は党を離れ活動すべきだと私たちは主張してきた。それが政党人のけじめと考えるためだ。
小沢元代表は参院で法案が採決されれば「民主党の枠を超えて、直接国民に訴える」という。首相が増税法案を撤回することはあり得ず、小沢元代表が協力に転じる以外に接点はない。それを知りつつなぜ、輿石氏と協議を続けるのか。同調した議員にも離党に慎重論があり、世論の動向も読み切れず、時間かせぎをしているのが実態ではないか。
党内には政党交付金の受け取りが可能な「分党」をめぐる交渉が主眼、との冷めた見方すらある。どれほどの覚悟で造反を主導したのかが問われよう。
首相にも小沢元代表以上に責任がある。「厳正な処分」を強調していたが除籍処分をするような決意はあまり感じられない。
小沢元代表らの大量離党をはずみに仮に今後衆院で少数与党に転落すれば、内閣不信任決議案の可決が現実味を帯びる。輿石氏が辞任したり、衆院解散を迫られる展開をおそれての弱腰とすれば、情けない。輿石氏に小沢元代表への対応を「お任せしたい」と言ったとされるが、信じがたい無責任さだ。増税に複雑な思いを抱きつつ賛成した議員にどう、説明する気なのか。
こんな状況に自民党が不信感を募らすのも無理はない。3党合意をよそに民主党が勝手に法案再修正を小沢元代表に確約するような妥協など、断じてあってはならない。参院審議の環境整備を急ぐべきだ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20120630k0000m070082000c.html
社説:大量造反で通過 民主はきっぱり分裂を毎日新聞 2012年06月27日 02時30分(最終更新 06月27日 02時50分)
民主党から大量に造反者が出る中、消費増税法案を柱とする税と社会保障の一体改革関連法案が衆院を通過した。民主党内の亀裂は、もはや修復不能であるのは誰の目にも明らかだ。ところが野田佳彦首相は造反者の処分について「輿石東幹事長と相談しながら厳正に対応したい」と語るのみで具体的に言及しなかった。一方、造反した小沢一郎元代表も直ちに離党はせず、「近く決断する」と述べただけだった。
もはや、きっぱりと分裂する時ではないか。その方が有権者にも分かりやすいし、そうでなければ政党政治の根幹が揺らいでしまう。
小沢元代表に大義ない 関連8法案のうち消費増税法案に反対票を投じた民主党議員は57人に上った。野田首相にとって大打撃になったのは間違いない。しかし、造反者すべてが離党する意向ではないという。小沢元代表のグループとは一線を画す一方、輿石氏ら執行部が大量の造反者に除籍(除名)などの厳しい処分を下せるはずがないと見越している議員も少なくない。
小沢元代表のグループの中にも離党して新党を結成するのは処分の行方や、衆院解散・総選挙の時期を見極めてからの方がいいとの意見がある。元代表は大量造反者の「数」を盾に、野田首相を揺さぶりたいのかもしれない。このため、なおしばらく党内抗争が続く可能性がある。
こうした国民そっちのけの主導権争いに有権者はうんざりし、かつてない政治不信につながっていることになぜ気がつかないのか。
一連の法案は、党の代表として選んだ野田首相が政治生命をかけると明言し、何度も党の手続きを重ねてきた。自民、公明両党との間で修正合意した政党間の信義もある。そんな法案に造反しても処分しないというのなら政党の体をなさない。
今回の小沢元代表らの行動に大義は乏しい。元代表のグループは「増税する前にすることがある」「マニフェストを守れ」という。だが、予算の無駄遣いをなくすなどして最終的に16・8兆円の財源を捻出すると約束して政権交代を果たしてからもう3年近くになる。この間、元代表らはどれだけ無駄の削減に努力したというのだろう。
そもそも前回衆院選のマニフェスト作りを主導し、「政権交代すれば財源はいくらでも出てくる」とばかりに財源論を放置したのは小沢元代表と鳩山由紀夫元首相だ。しかも鳩山首相時代の09年末、マニフェストの柱の一つだった「ガソリン税の暫定税率廃止」をあっさり撤回させたのは小沢元代表だ。これでは、ご都合主義といわれても仕方がない。
小沢元代表らが今後、新党を結成するにせよ、民主党内で再び主導権争いをする道を選ぶにせよ、どうすれば増税をせずに社会保障制度を維持していけるのか、具体的に提示するのが最低限の責任だ。それができなければ「国民の生活が第一」どころか、「自分の選挙が第一」、つまり「ともかく増税に反対すれば選挙で有利になるかもしれない」というのが造反の理由だったことになる。
93年に自民党を離党して以来、小沢元代表は新党を作っては壊してきた。03年秋、元代表率いる自由党が民主党と合併した後も、民主党内では「小沢対反小沢」の対立が繰り返されてきた。私たちは政策論争より権力闘争が優先される政治から一刻も早く決別したいと思う。
信を問い直す時期 その点、一連の法案が民主党議員の造反がありながらも自民党と公明党などの賛成を得て衆院を通過し、参院でも可決・成立する見通しとなったのは、与野党の足の引っ張り合いから脱却し、「決める政治」への一歩となったと改めて評価したい。元々、与党は参院では半数を割っている。首相は当面、他の法案も含め自、公両党の協力を求める「部分連合」を探っていくほかない。
もちろん、消費増税に対する国民の理解は進んでいない。一体改革といいながら、年金など肝心の社会保障の具体論はほとんど棚上げされ、増税ばかりが先行しているのも事実だ。低所得者対策として有効と思われる軽減税率導入などは今後の検討対象とはなったが、これもまた結論を得ていない。参院での審議では、法案の賛否だけでなく、これらの点に関しても議論を進めるべきだ。
首相は一連の法案が成立した後に国民の信を問うと語ってきた。衆院解散・総選挙に臨む覚悟も求められる時だ。ところが首相らが造反者への処分をためらうのは造反組と野党が共闘して内閣不信任案が可決される事態を避けたいためではないか。解散を恐れていては「増税は国民のために必要」「将来世代にツケを残さない」という信念は伝わらない。
いずれ、あと1年余で衆院議員は任期満了となるというのに、衆院小選挙区の「1票の格差」是正議論は進んでいない。再三指摘してきたように定数削減と1票の格差是正を同時決着させるのは困難だ。まずは小選挙区の「0増5減」に向けた立法措置を講じることを優先すべきだ。
既に民主党は分裂状態で、有権者が選択した政権の姿は大きく変容している。可能な限り早急に国民の信を問い直すべきだと考える。
http://mainichi.jp/opinion/news/20120627k0000m070110000c.html
整備新幹線で大盤振る舞いするときか 2012/6/30付
国土交通省は29日、整備新幹線の3区間の着工を認可した。消費増税法案が衆院を通過した直後である。こんな時期に総事業費が3兆円を超す大型公共事業を認めるという民主党政権の対応は理解に苦しむ。
認可したのは北海道新幹線の新函館―札幌間、北陸新幹線の金沢―敦賀間、九州新幹線長崎ルートの諫早―長崎間の3区間だ。総事業費の7割を国と沿線の自治体が負担し、残りはJR各社が鉄道建設機構に納める線路の使用料を充てる計画だ。
九州が10年後、北陸が13年後、北海道が23年後の完成を予定している。それぞれの地域にとっては朗報だろうが、事業の採算性やその効果には疑問が残る。
まず、需要予測が甘いのではないか。国土交通省の審議会が実施した試算では、今後競争が激しくなるとみられる格安航空会社の動向を考慮していない。新幹線とほぼ並行して走る高速道路の車線数を増やす地域もある。
国交省は3区間のいずれも費用より時間短縮などの効果が上回るとみている。しかし、事業費が少しでも膨らめば逆転するような水準だ。当初、2兆7500億円だった総事業費はすでに、3000億円程度増えている。
今回の各区間の工期はこれまでの類似事業に比べて長い。国交省は「1年ごとの支出額を抑えるため」と説明している。そうまでしてなぜ、3つの区間を同時に始める必要があるのかわからない。
民主党政権はこれまで公共事業予算を削減し、様々な大型事業を凍結してきた。しかし、4月に高速道路の建設再開を認めたことに続く、整備新幹線の新規着工だ。「コンクリートから人へ」という理念を捨て、ばらまき政策に転換したと判断せざるを得ない。
今後、老朽化したインフラの維持・更新費が膨らむだけに、新規に着手する事業は徹底的に絞り込む必要がある。整備新幹線は優先度が高い事業とは言い難い。
おかしいのは民主党だけではない。自民党も10年間で200兆円の投資を見込む国土強靱(じん)化基本法案を今国会に提出している。災害に強い国土づくりを掲げているが、その内容をみると旧来型の公共事業が並んでいる。
国民に増税への理解を求めなければならない今、こんなありさまでいいのか。公共事業費を抑える手綱を緩めてはならない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43193680Q2A630C1EA1000/
「決める政治」の道筋を示した3党連携 2012/6/27付
「決める政治」への一歩として評価したい。社会保障と税の一体改革関連法案が衆院で可決された。民主、自民、公明の主要3党が無用ないがみ合いをやめれば政治は動く。それが分かったことが一番大きい。
古今東西を見渡して増税が好きな国民はまずいない。1979年に一般消費税導入に失敗した大平正芳首相をはじめとして、税の歴史には討ち死にした政治家の死屍(しし)累々である。
消費税率を5%に引き上げてから15年。自民党政権も民主党政権もさらなる引き上げは避けがたいと内心思いつつ、難題を先送りしてきた。自身の安泰のみを願う国会議員の利己的な姿は国民の政治への信頼を大きく損なった。
厳しい選択を迫られたギリシャをみて、下手をすればあすは我が身と感じなかったか。苦い薬も飲まなくてはならないときがある。日本政治も転機を迎えるべきだ。
自民党の谷垣禎一総裁は民自公の3党が直ちに大連立することには否定的だ。来年9月までに次期衆院選があることを考えれば第1党と第2党が争いつつ政権をともにするのは簡単ではないだろう。
だからといって民自公3党に今回生まれた連携の機運をこれきりにしてしまうのはもったいない。
3党合意で宿題となった社会保障分野の抜本改革に加え、赤字国債発行法案の処理や補正予算案の編成など3党がよく話し合えばよりよい結論が得られる案件がまだまだある。違憲状態が続く衆院の1票の格差の是正も急務だ。
次期衆院選までに解決すべき懸案は何か、与野党が入れ替わってもやるべき中長期の課題は何か。3党が政策協議を続け、合意した案件は迅速に処理する「部分連合」のような形はあってよい。
残念なのは一体改革法案の採決で民主党から大量の造反者が出たことだ。基本政策で立場が異なるならば別々の道を行くしかない。反対票を投じた議員はあらかじめ離党しておくのが筋だった。
造反を主導した小沢一郎元代表らは当面は党にとどまる意向のようだ。輿石東幹事長は「党の分裂は避けたい」としているが、割れた器をいくら繕っても水漏れするばかりだ。
野田佳彦首相は「厳正な処分」を明言した。除名を排除すべきではない。ここで腰砕けになってはせっかく衆院を通過した法案の参院での審議もおぼつかない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43046000X20C12A6EA1000/
民主党の混乱―問題は「果たせぬ約束」6月28日
マニフェストについて民主党が非難されるべきなのは「約束を果たさなかったから」ではない。「果たせない約束をしたから」である。
分裂状態に陥った民主党で、小沢一郎元代表ら造反議員は野田政権の「公約違反」を批判する。政権交代につながった09年総選挙の公約に消費税増税はなかった。たしかに「国民に対する背信行為」のそしりは免れない。いずれ総選挙で国民の審判を仰がねばなるまい。
だが、野田首相に「約束を果たせ」と言いつのる小沢氏らは財源の裏付けのない「果たせない約束」をつくった責任をどう考えるのか。
もう一度、民主党の公約を見てみよう。
月2万6千円の子ども手当を支給する。月7万円を最低保障する新年金制度を導入する。提供するサービスははっきり書いてある。一方、財源については「むだの削減」といった、あいまいな記述にとどまる。
最低保障年金を実現するには、「10%」をはるかに上回る増税が必要になることも、それにもかかわらず多くの人の年金が減ることも書かれていない。
「負担増なしに福祉国家を実現できる」と言わんばかりの公約だった。
その公約づくりを党代表として主導したのは、ほかならぬ小沢氏だった。子ども手当の額を上積みさせ、「財源はなんぼでも出てくる」と言い続けた。
現実には、子育て支援の充実も年金財政の安定も、増税なしには困難だ。だからこそ、3代の民主党政権が苦しみ続けたのではなかったか。
小沢氏は何をしていたのか。「むだを省けば、増税なしに財源をつくれる」というなら、具体的にこのむだを省けと政権に迫ればいいではないか。増税を試みた菅政権にも野田政権にも、そんな説得の努力をしたとはついぞ聞かない。
小沢氏自身、増税なしには社会保障の維持さえできないことはわかっているはずだ。だから、細川政権時代に7%の国民福祉税を導入しようとしたのではなかったのか。
いまさら「反消費増税」の旗を振るのは、ご都合主義が過ぎる。にもかかわらず造反議員らは「反消費増税」を旗印にした新党づくりを公言している。執行部は厳しい処分で臨み、きっぱりとたもとを分かつべきだ。
「果たせない約束」を掲げて政治を空転させることを繰り返してはならない。次の総選挙に向けて、政治が国民の信頼を回復する道はそれしかない。
http://www.asahi.com/paper/editorial20120628.html
一体改革、衆院通過―緊張感もち、政治を前へ6月27日
政権交代からまもなく3年。迷走を重ねてきた「決められない政治」が、ようやく一歩、前に進む。率直に歓迎したい。
社会保障と税の一体改革関連法案が衆院を通過した。
政権交代の時代、政党は「違い」を強調しがちだ。
そんななか、民主、自民、公明の3党が、国の将来に直結する重要政策で歩み寄り、共同責任を負う意義は大きい。
■緊急避難的な選択
衆院採決では民主党の小沢一郎元代表らが集団で反対し、民主党は分裂状態に入った。
野田首相が「政治生命をかける」とまで言った法案に反対した勢力が、このまま同じ党にい続けるのはおかしい。
首相と小沢氏はこの際、きっぱりたもとを分かつしかない。
政党が選挙で競い、勝者が公約を実行する。それが議会制民主主義の要諦(ようてい)なら、3党協力の枠組みはそれとは矛盾する。
しかし、与野党が角突き合わせ、身動きがとれない政治の惨状を打開するためには、やむをえない、緊急避難的な選択だと受け止める。
09年総選挙で、民主党は「消費税は上げない」と言って政権を射止めた。国の借金が1千兆円に迫るなか、それは無責任な「甘い夢」だった。
経済はグローバル化し、少子高齢化も進む。多くの制約のなかで、政治がとりうる選択肢は少ない。
民主党政権の混迷を決定づけたのは、10年の参院選の敗北による「ねじれ国会」である。
自民党もまた、政権を失うまでの2年間、福田、麻生両政権で「ねじれ国会」に苦悩した。
首相が1年おきに代わるなど、この5年、2大政党はともに重い代償を払ってきた。そのことが、結果として今回の枠組みに結びついた。
■なれ合い、政争排せ
この3党の協力態勢がいつまで続くかは見通せない。
衆院議員の任期切れまであと1年あまり。来年夏には参院選がある。選挙が近づけば近づくほど、政党同士が必要以上に違いを強調し、足の引っ張り合いが激しくなるのが永田町の通例だからだ。
実際、小沢氏らの造反で弱まった野田政権の足元を見るかのように、自民党はさっそく早期の解散・総選挙を求める声を強めている。
国民そっちのけの政争で、政治を停滞させる愚を繰り返してはならない。
逆の不安もある。3党が巨大な「数」をたのみに、手前勝手な方向に走り出すことだ。
その芽はすでに現れている。
原子力規制法案をめぐる3党の修正協議で、原発を稼働40年で廃炉にする条文を骨抜きにしかねない規定が盛られた。
3党はまた、原子力の利用は「我が国の安全保障に資する」ために確保するとの文言を原子力基本法に追加した。「原子力政策の憲法」が、十分な議論もないままに変更されたのだ。
自民党は、3年で15兆円の巨費を道路整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。この時代錯誤の提案に、民主党が歯止めをかけられるかどうかが問われる。
3党協力の枠組みは「両刃(もろは)の剣」である。
なれ合うことなく、緊張感をもって協力すべきは協力する。政権交代の時代にふさわしい政治文化を築く第一歩としたい。
■総選挙へ環境整備を
政治がいま、回答を迫られている課題は山ほどある。
たとえば、たなざらしのままの赤字国債発行法案や、最高裁に違憲状態と指弾された衆院の「一票の格差」是正だ。延長国会でこれら喫緊の課題を決着させる。それが最優先だ。
3党は、社会保障政策について「国民会議」で1年間、話し合うことで合意した。政権交代で与野党が入れ替わっても、多様な分野で政治を前に進めていく責任を分かち合う。そんなルールと仕組みも整えたい。
消費増税をめぐる政争の陰で先送りされてきた原子力政策、貿易自由化、震災復興など、日本の未来図にかかわる議論も加速しなければならない。
一体改革は必要だが、民主党政権が消費税は上げないという国民との約束に背いたのは間違いない。「予算の組み替えなどで16.8兆円の新規財源を生み出す」とした、政権公約の根幹が実行不能な幻にすぎなかったことはいまや明らかだ。
筋から言えば、ここは早期の解散・総選挙で信を問い直すべしという声が出るのは自然だ。
とはいえ、衆院の「一票の格差」を正さなければ、解散・総選挙はできまい。それには区割りと周知に数カ月かかる。
各党は、総選挙を行うための環境を早く整える必要がある。
そしてそれまでの間に、各党がしっかりした財源の裏づけのある公約を練り直すべきだ。
「国民会議」の議論は半ばになろうが、各党の主張は公約に反映させればいい。
http://www.asahi.com/paper/editorial20120627.html
そうしたトリックに対して、いくつかの世論調査が出され、国民の「世論」が形成されている。
29日、民主党国会議員の運動員がビラを駅頭で配っている時、大声で怒鳴っている「有権者」を見た。「小沢についていくな」と。ここに現在の政治の、ひとつの局面がでているように思う。
今回の民主党の内紛劇に対して、3党合意で消費税増税と社会保障の改悪に持ち込んだ自公の対応を問題にしないマスコミもおかしい。
自公は、民主党が小沢派を切らないのであるならば、民主党内のゴタゴタを解決しないなら、参議院では増税案の審議に入る前に内閣不信任を出す。そうして解散総選挙に持ち込むというのだ。
ともに悪政を決定しておいて、小沢派を切るか切らないか、それで内閣不信任を出すというのは、あまりに小沢派を高く買っているということだ。これでは小沢派切捨て解散総選挙となり、国民にはどのような選挙政策で選挙戦をたたかうのか。不思議なことが起こりそうだ。民自公は全く混迷してしまうのではないか?まさに自殺行為となると思う。
国民にとってはいい迷惑だ。政党助成金を含めて多額の税金が選挙で使われるからだ。
ま、「自民はダメ」だったから、「政権交代」「政権選択」を煽られて民主に期待が集まり、民主に投票した、一票一揆が起こった。しかし、その「民主もダメ」となり、民主を追及している「自民もダメ」という状況のなかで、何が喧伝されるか。それは明らかだ。
こうした状況にあって大飯再稼動反対で見せた「市民パワー」が、マスコミの情報操作を乗り越えて、どのように動くか、そこにかかっている。
大飯原発再稼動と同じように争点は明確だ。増税しなくても社会保障を充実させる、財政再建が可能な道は何か、それだ。
同時に、日米安保条約に基づいてオスプレイ配備を強行しようとうる日米政府にみるように、アメリカの言いなりの外交かどうか、だ。オスプレイの配備を強行するようであれば「米軍基地の閉鎖が問題になってくる」と仲井間県知事が森本防衛大臣に語ったことが象徴的だ。
現在の政治の矛盾はここまで来たということだ。
だが、確認しておく。小沢派が本当の意味で国民の立場に立っているかどうか、それは「否」だろう。だが、現局面で、悪政を前に進める勢力と対峙しているという点については、一致していく必要があるだろう。
では、「造反者」はどちらか、全国紙をみてみよう。
分裂騒ぎの民主 国民への造反者は誰か【東京社説】2012年6月29日
小沢一郎民主党元代表が反対し、撤回を求めた消費税増税法案。野田佳彦首相は「造反」議員らの厳正な処分を表明したが、公約破りは首相の方だ。どちらが国民に対する造反かを見極めたい。
二〇〇九年衆院選マニフェストを反故(ほご)にした首相が悪いのか、実現できない公約を作った小沢氏の責任がより重いのか。
民主党内ばかりか自民、公明両党からも厳しい処分を求める声が相次ぐ小沢氏の方が分は悪そうだが、公約に期待して民主党に政権を託した有権者は、野田氏の方にこそ問題ありと言いたいのではなかろうか。
有権者は「生活が第一」「官僚主導から政治主導へ」「税金の無駄遣い根絶」「緊密で対等な日米関係」など、自公時代とは違う政権の実現を目指して票を投じた。
もちろんそれらは難題だ。官僚機構や既得権益層の厚い岩盤を穿(うが)つのは容易でない。だからこそ政権交代という権力構造の歴史的変化に実現を託したのではないか。
民主党議員の多くは、それらの実現は難しいと言うが、どこまで死力を尽くしたのか。抵抗が強いが故に早々に諦め、増税路線になびいたと疑われても仕方がない。
できない約束を作った方が悪いという指摘もある。実現困難だと決め付けるのは早計だが、仮にできない約束だとしても、それを掲げて選挙に勝ったのではないか。
実現に努力するのは当然だし、できないと考えるなら、作成時に疑義を申し出るべきだった。納得できないのなら民主党以外から立候補すべきではなかったか。
公約破りの消費税増税を正当化するのは信義に反する。
小沢氏は、民主党を離れないように求めた輿石東幹事長に対し、消費税増税法案の撤回を求め、話し合いは平行線に終わった。
両氏はきょうにも再会談するが小沢氏らが新党結成に踏み切れば民主党が歴史的役割を果たせずに瓦解(がかい)する。残念だが、国民との約束を守れないなら仕方がない。
そうなれば、民主党は政権政党としての正統性を失う。首相は消費税増税法案成立を強行せず、衆院を早急に解散すべきだ。そのためにも違憲・違法状態にある衆院の「一票の格差」を是正する必要がある。
民主党が提出した一部連用制の導入案は複雑で、解散先延ばしが目的と疑われかねない。選挙制度の抜本改革は次期衆院選以降の課題とし、今国会では「〇増五減」案の実現を急ぐべきだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012062902000111.html
民主党分裂へ 首相は早期に体制を立て直せ(7月1日付・読売社説)
「3党合意を修正することはあり得ない」。野田首相が明言した。
首相は、相変わらず身勝手な主張を繰り返す小沢一郎元代表らと一刻も早く決別し、民主党の体制を立て直さなければならない。
首相が読売国際経済懇話会(YIES)で講演し、民主、自民、公明の修正合意で衆院を通過した社会保障・税一体改革関連法案について、「3党で作ったものは責任を持って参院で審議し、通すということだ」と強調した。
小沢氏は、法案採決で反対した後も「消費増税を阻止できるよう努力したい」と語っている。首相がこうした発言を明確に否定したのは当然である。
民主党内では、小沢氏と輿石幹事長が3度も会談し、何らかの形で事態打開を図っているため、造反議員が党内にとどまりながら国会の会派は別にする「会派離脱」案などが取り沙汰されていた。
これに対しても首相は、「あり得ない」とした上で、「選挙区で『消費税を引き上げるしかない』と頑張っている。隣では同じ党なのに『私は反対』と言う人がいるのはおかしい」とも語った。
党内が重要政策で割れている不正常な状態を放置すべきではない。首相は、造反議員への厳正な処分を急がねばならない。週明けの党役員会で方向性をはっきり打ち出してもらいたい。
問題は、処分のカギを握る輿石氏の態度である。自民党の大島理森副総裁は「首相と幹事長の意見の不一致がいろんな問題を起こしてきた」と批判している。
だが、首相は「自分を支える幹事長を信じている」と述べた。その信頼に応え、輿石氏ら党執行部は造反議員への処分手続きを粛々と進めることが肝要である。
小沢氏らは離党届を提出する方針だ。党の分裂は確実となった。輿石氏の説得工作は、もはや意味を失っている。
党内融和路線をこれ以上模索すれば、せっかく築いてきた自公両党との信頼関係を損なうことにもなりかねない。
今国会で民自公3党が協調して取り組むべき課題は、一体改革関連法案だけではない。
赤字国債の発行を認める特例公債法案や、衆院の「1票の格差」を是正するための選挙制度改革などの懸案が、残されたままとなっている。いずれも早期に決着させる必要がある。
「後退はない。揺るぎなく前に進む」。首相はその決意通り、結果を出すことが求められよう。
(2012年7月1日01時41分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120630-OYT1T01121.htm
小沢・輿石会談 無茶な要求には付き合えない(6月30日付・読売社説)
「離党カード」をちらつかせ、理不尽な要求を突きつける――。まさに「壊し屋」らしい手法だが、民主党執行部は断固拒否すべきだ。
民主党の小沢一郎元代表が輿石幹事長と3回にわたり会談し、社会保障・税一体改革関連法案を参院で採決、成立させるなら、自らのグループを率いて集団離党する考えを伝えた。
輿石氏は、翻意を求め、調整が続いている。小沢氏は週明けには結論を出したい意向という。
小沢氏の要求は、法案成立に政治生命を懸ける野田首相が到底容認できない、無茶なものだ。
問題なのは、輿石氏が、党分裂を回避しようと、何らかの妥協を検討していることである。
関連法案は、民主、自民、公明の3党合意に基づき、修正された。3党合意は、各党が譲り合ってまとめたもので、極めて重い。
小沢氏らが法案の衆院採決で反対したことは、3党合意への造反を意味し、自民、公明両党は強く反発している。それなのに、小沢氏を懐柔するために、民主党執行部が妥協するのは本末転倒だ。
小沢氏らの造反は、党執行部が「党内融和」の名の下、深刻な路線対立に目をつぶり、糊塗(こと)してきたツケにほかならない。党内の亀裂は、もはや修復不能である。
輿石氏が今すべきは、小沢氏に厳しい処分を下すことだ。
そもそも民主党の政権公約(マニフェスト)に固執し、「国民との約束を実行する」との小沢氏の主張には、正当性がない。
政権交代後、2年10か月近くになる。年間16・8兆円の財源捻出が可能としたマニフェストは完全に破綻している。小沢氏自身、幹事長を8か月以上務めながら、公約実現に動いた形跡はない。
今になって、「増税の前にやるべきことがある」「民主党は政権交代の原点に戻れ」などと唱えても、説得力のある行政改革や景気改善の具体策を明示しなければ、信用できるはずがない。
小沢氏は19年前に自民党を離党して以来、新生、新進、自由の各党の結成・解散を繰り返した後、民主党に合流した。政策より政局を重視する、強引で独善的な政治手法や、金権体質を今も引きずっている。
2006年4月、小沢氏は民主党代表に就任する際、「まず私自身が変わらなければならない」と大見えを切った。
だが、今回の離党に向けた動きは、小沢流の政治が何ら変わっていないことを裏付けている。
(2012年6月30日01時16分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120629-OYT1T01430.htm
民主党 茶番劇いつまで続けるか2012.6.30 03:56 (1/2ページ)[主張]
延々と続けられる茶番劇に、国民は怒りさえ覚えているのではないか。消費税増税法案の採決をめぐる民主党内の造反者処分問題である。
輿石東幹事長が29日も小沢一郎元代表と会談を重ねたが、平行線で終わった。小沢氏は法案成立の方針が変わらない場合、離党する意向も示している。
今国会成立に政治生命を懸ける野田佳彦首相との間で合意点を見つけることなど、最初から無理な話ではないか。
首相は「幹事長にお任せ」ではなく、直ちに造反者の除名など厳しい処分を打ち出す必要がある。小沢氏や支持議員も筋を通して離党すべきだ。
すみやかに混乱が収束されなければ、自民、公明両党と修正合意にこぎつけた「決める政治」も、再び後戻りすることになる。
28日以降、3度にわたって行われた会談で、小沢氏は消費税増税法案の撤回を求めた。問題は輿石氏が民放番組で「よりよい法案に仕上げていくのが参院の使命だ」と語ったことだ。法案の再修正が、小沢氏らの離党をとどめる条件として浮上しているとも受け止められた。
首相が即座に「再修正は常識的にあり得ない」と否定したのは当然のことだ。民主党の内輪もめを理由に、公党間の合意を見直すことなどあってはならない。
輿石氏は「除名などしたら党はどんどん分裂という流れになる」と、造反者への厳しい処分に否定的な見解も示してきた。だが、処分を甘くしたからといって、消費税増税をめぐる党内の意見対立が解消されるわけではない。
首相は自ら、処分の素案を輿石氏に示すとしている。しかし、厳しいものにはならないのではと、法案に賛成した若手議員らから反発を招いている。除名処分など、きちんとした決断ができなければ、首相の指導力はさらに低下してしまうだろう。
事態収拾に手間取っている民主党政権に対し、修正合意の当事者である自民、公明両党が反発しているが、短絡的行動は禁物だ。
輿石氏は週明けまで調整したいというが、いつまで続けるつもりか。首相は一刻も早くこの問題に決着をつけ、野党が求める衆参両院での予算委員会の開催などに応じ、関連法案の参院での審議入りを急がねばならない。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120630/stt12063003570002-n2.htm
毎日社説:離党問題の混迷 けじめ無き政党の醜態毎日新聞 2012年06月30日 02時31分
消費増税法案など一体改革法案の衆院採決で事実上分裂状態に陥った民主党で小沢一郎元代表らの離党をめぐりこの期に及んでなお、内向きな駆け引きが続いている。
造反議員を除籍できない野田佳彦首相、さっさと離党しない小沢元代表、双方の締まりのなさにあきれる。歩み寄りの余地がないことは明らかだ。一日も早くたもとを分かつことが最低限の節度である。
政権の命運がかかるテーマで大量造反が起きた重大さが首相も小沢元代表もよくわかっていないのではないか。そう、勘ぐってしまう。
まず、解せないのが小沢元代表と輿石東幹事長の会談だ。造反議員の処分は首相と輿石氏に一任されている。本来は速やかに輿石氏が処分を伝え、小沢元代表らは離党など自らの決断を表明すべきだ。
ところが、輿石氏は党を割らぬよう要請し、小沢元代表は法案の撤回を要求している。「処分する側が逆に右往左往している」との批判が党内から出るのは当然だ。
増税法案に反対した小沢元代表らの主張は理解できない。一方で反対する以上は党を離れ活動すべきだと私たちは主張してきた。それが政党人のけじめと考えるためだ。
小沢元代表は参院で法案が採決されれば「民主党の枠を超えて、直接国民に訴える」という。首相が増税法案を撤回することはあり得ず、小沢元代表が協力に転じる以外に接点はない。それを知りつつなぜ、輿石氏と協議を続けるのか。同調した議員にも離党に慎重論があり、世論の動向も読み切れず、時間かせぎをしているのが実態ではないか。
党内には政党交付金の受け取りが可能な「分党」をめぐる交渉が主眼、との冷めた見方すらある。どれほどの覚悟で造反を主導したのかが問われよう。
首相にも小沢元代表以上に責任がある。「厳正な処分」を強調していたが除籍処分をするような決意はあまり感じられない。
小沢元代表らの大量離党をはずみに仮に今後衆院で少数与党に転落すれば、内閣不信任決議案の可決が現実味を帯びる。輿石氏が辞任したり、衆院解散を迫られる展開をおそれての弱腰とすれば、情けない。輿石氏に小沢元代表への対応を「お任せしたい」と言ったとされるが、信じがたい無責任さだ。増税に複雑な思いを抱きつつ賛成した議員にどう、説明する気なのか。
こんな状況に自民党が不信感を募らすのも無理はない。3党合意をよそに民主党が勝手に法案再修正を小沢元代表に確約するような妥協など、断じてあってはならない。参院審議の環境整備を急ぐべきだ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20120630k0000m070082000c.html
社説:大量造反で通過 民主はきっぱり分裂を毎日新聞 2012年06月27日 02時30分(最終更新 06月27日 02時50分)
民主党から大量に造反者が出る中、消費増税法案を柱とする税と社会保障の一体改革関連法案が衆院を通過した。民主党内の亀裂は、もはや修復不能であるのは誰の目にも明らかだ。ところが野田佳彦首相は造反者の処分について「輿石東幹事長と相談しながら厳正に対応したい」と語るのみで具体的に言及しなかった。一方、造反した小沢一郎元代表も直ちに離党はせず、「近く決断する」と述べただけだった。
もはや、きっぱりと分裂する時ではないか。その方が有権者にも分かりやすいし、そうでなければ政党政治の根幹が揺らいでしまう。
小沢元代表に大義ない 関連8法案のうち消費増税法案に反対票を投じた民主党議員は57人に上った。野田首相にとって大打撃になったのは間違いない。しかし、造反者すべてが離党する意向ではないという。小沢元代表のグループとは一線を画す一方、輿石氏ら執行部が大量の造反者に除籍(除名)などの厳しい処分を下せるはずがないと見越している議員も少なくない。
小沢元代表のグループの中にも離党して新党を結成するのは処分の行方や、衆院解散・総選挙の時期を見極めてからの方がいいとの意見がある。元代表は大量造反者の「数」を盾に、野田首相を揺さぶりたいのかもしれない。このため、なおしばらく党内抗争が続く可能性がある。
こうした国民そっちのけの主導権争いに有権者はうんざりし、かつてない政治不信につながっていることになぜ気がつかないのか。
一連の法案は、党の代表として選んだ野田首相が政治生命をかけると明言し、何度も党の手続きを重ねてきた。自民、公明両党との間で修正合意した政党間の信義もある。そんな法案に造反しても処分しないというのなら政党の体をなさない。
今回の小沢元代表らの行動に大義は乏しい。元代表のグループは「増税する前にすることがある」「マニフェストを守れ」という。だが、予算の無駄遣いをなくすなどして最終的に16・8兆円の財源を捻出すると約束して政権交代を果たしてからもう3年近くになる。この間、元代表らはどれだけ無駄の削減に努力したというのだろう。
そもそも前回衆院選のマニフェスト作りを主導し、「政権交代すれば財源はいくらでも出てくる」とばかりに財源論を放置したのは小沢元代表と鳩山由紀夫元首相だ。しかも鳩山首相時代の09年末、マニフェストの柱の一つだった「ガソリン税の暫定税率廃止」をあっさり撤回させたのは小沢元代表だ。これでは、ご都合主義といわれても仕方がない。
小沢元代表らが今後、新党を結成するにせよ、民主党内で再び主導権争いをする道を選ぶにせよ、どうすれば増税をせずに社会保障制度を維持していけるのか、具体的に提示するのが最低限の責任だ。それができなければ「国民の生活が第一」どころか、「自分の選挙が第一」、つまり「ともかく増税に反対すれば選挙で有利になるかもしれない」というのが造反の理由だったことになる。
93年に自民党を離党して以来、小沢元代表は新党を作っては壊してきた。03年秋、元代表率いる自由党が民主党と合併した後も、民主党内では「小沢対反小沢」の対立が繰り返されてきた。私たちは政策論争より権力闘争が優先される政治から一刻も早く決別したいと思う。
信を問い直す時期 その点、一連の法案が民主党議員の造反がありながらも自民党と公明党などの賛成を得て衆院を通過し、参院でも可決・成立する見通しとなったのは、与野党の足の引っ張り合いから脱却し、「決める政治」への一歩となったと改めて評価したい。元々、与党は参院では半数を割っている。首相は当面、他の法案も含め自、公両党の協力を求める「部分連合」を探っていくほかない。
もちろん、消費増税に対する国民の理解は進んでいない。一体改革といいながら、年金など肝心の社会保障の具体論はほとんど棚上げされ、増税ばかりが先行しているのも事実だ。低所得者対策として有効と思われる軽減税率導入などは今後の検討対象とはなったが、これもまた結論を得ていない。参院での審議では、法案の賛否だけでなく、これらの点に関しても議論を進めるべきだ。
首相は一連の法案が成立した後に国民の信を問うと語ってきた。衆院解散・総選挙に臨む覚悟も求められる時だ。ところが首相らが造反者への処分をためらうのは造反組と野党が共闘して内閣不信任案が可決される事態を避けたいためではないか。解散を恐れていては「増税は国民のために必要」「将来世代にツケを残さない」という信念は伝わらない。
いずれ、あと1年余で衆院議員は任期満了となるというのに、衆院小選挙区の「1票の格差」是正議論は進んでいない。再三指摘してきたように定数削減と1票の格差是正を同時決着させるのは困難だ。まずは小選挙区の「0増5減」に向けた立法措置を講じることを優先すべきだ。
既に民主党は分裂状態で、有権者が選択した政権の姿は大きく変容している。可能な限り早急に国民の信を問い直すべきだと考える。
http://mainichi.jp/opinion/news/20120627k0000m070110000c.html
整備新幹線で大盤振る舞いするときか 2012/6/30付
国土交通省は29日、整備新幹線の3区間の着工を認可した。消費増税法案が衆院を通過した直後である。こんな時期に総事業費が3兆円を超す大型公共事業を認めるという民主党政権の対応は理解に苦しむ。
認可したのは北海道新幹線の新函館―札幌間、北陸新幹線の金沢―敦賀間、九州新幹線長崎ルートの諫早―長崎間の3区間だ。総事業費の7割を国と沿線の自治体が負担し、残りはJR各社が鉄道建設機構に納める線路の使用料を充てる計画だ。
九州が10年後、北陸が13年後、北海道が23年後の完成を予定している。それぞれの地域にとっては朗報だろうが、事業の採算性やその効果には疑問が残る。
まず、需要予測が甘いのではないか。国土交通省の審議会が実施した試算では、今後競争が激しくなるとみられる格安航空会社の動向を考慮していない。新幹線とほぼ並行して走る高速道路の車線数を増やす地域もある。
国交省は3区間のいずれも費用より時間短縮などの効果が上回るとみている。しかし、事業費が少しでも膨らめば逆転するような水準だ。当初、2兆7500億円だった総事業費はすでに、3000億円程度増えている。
今回の各区間の工期はこれまでの類似事業に比べて長い。国交省は「1年ごとの支出額を抑えるため」と説明している。そうまでしてなぜ、3つの区間を同時に始める必要があるのかわからない。
民主党政権はこれまで公共事業予算を削減し、様々な大型事業を凍結してきた。しかし、4月に高速道路の建設再開を認めたことに続く、整備新幹線の新規着工だ。「コンクリートから人へ」という理念を捨て、ばらまき政策に転換したと判断せざるを得ない。
今後、老朽化したインフラの維持・更新費が膨らむだけに、新規に着手する事業は徹底的に絞り込む必要がある。整備新幹線は優先度が高い事業とは言い難い。
おかしいのは民主党だけではない。自民党も10年間で200兆円の投資を見込む国土強靱(じん)化基本法案を今国会に提出している。災害に強い国土づくりを掲げているが、その内容をみると旧来型の公共事業が並んでいる。
国民に増税への理解を求めなければならない今、こんなありさまでいいのか。公共事業費を抑える手綱を緩めてはならない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43193680Q2A630C1EA1000/
「決める政治」の道筋を示した3党連携 2012/6/27付
「決める政治」への一歩として評価したい。社会保障と税の一体改革関連法案が衆院で可決された。民主、自民、公明の主要3党が無用ないがみ合いをやめれば政治は動く。それが分かったことが一番大きい。
古今東西を見渡して増税が好きな国民はまずいない。1979年に一般消費税導入に失敗した大平正芳首相をはじめとして、税の歴史には討ち死にした政治家の死屍(しし)累々である。
消費税率を5%に引き上げてから15年。自民党政権も民主党政権もさらなる引き上げは避けがたいと内心思いつつ、難題を先送りしてきた。自身の安泰のみを願う国会議員の利己的な姿は国民の政治への信頼を大きく損なった。
厳しい選択を迫られたギリシャをみて、下手をすればあすは我が身と感じなかったか。苦い薬も飲まなくてはならないときがある。日本政治も転機を迎えるべきだ。
自民党の谷垣禎一総裁は民自公の3党が直ちに大連立することには否定的だ。来年9月までに次期衆院選があることを考えれば第1党と第2党が争いつつ政権をともにするのは簡単ではないだろう。
だからといって民自公3党に今回生まれた連携の機運をこれきりにしてしまうのはもったいない。
3党合意で宿題となった社会保障分野の抜本改革に加え、赤字国債発行法案の処理や補正予算案の編成など3党がよく話し合えばよりよい結論が得られる案件がまだまだある。違憲状態が続く衆院の1票の格差の是正も急務だ。
次期衆院選までに解決すべき懸案は何か、与野党が入れ替わってもやるべき中長期の課題は何か。3党が政策協議を続け、合意した案件は迅速に処理する「部分連合」のような形はあってよい。
残念なのは一体改革法案の採決で民主党から大量の造反者が出たことだ。基本政策で立場が異なるならば別々の道を行くしかない。反対票を投じた議員はあらかじめ離党しておくのが筋だった。
造反を主導した小沢一郎元代表らは当面は党にとどまる意向のようだ。輿石東幹事長は「党の分裂は避けたい」としているが、割れた器をいくら繕っても水漏れするばかりだ。
野田佳彦首相は「厳正な処分」を明言した。除名を排除すべきではない。ここで腰砕けになってはせっかく衆院を通過した法案の参院での審議もおぼつかない。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO43046000X20C12A6EA1000/
民主党の混乱―問題は「果たせぬ約束」6月28日
マニフェストについて民主党が非難されるべきなのは「約束を果たさなかったから」ではない。「果たせない約束をしたから」である。
分裂状態に陥った民主党で、小沢一郎元代表ら造反議員は野田政権の「公約違反」を批判する。政権交代につながった09年総選挙の公約に消費税増税はなかった。たしかに「国民に対する背信行為」のそしりは免れない。いずれ総選挙で国民の審判を仰がねばなるまい。
だが、野田首相に「約束を果たせ」と言いつのる小沢氏らは財源の裏付けのない「果たせない約束」をつくった責任をどう考えるのか。
もう一度、民主党の公約を見てみよう。
月2万6千円の子ども手当を支給する。月7万円を最低保障する新年金制度を導入する。提供するサービスははっきり書いてある。一方、財源については「むだの削減」といった、あいまいな記述にとどまる。
最低保障年金を実現するには、「10%」をはるかに上回る増税が必要になることも、それにもかかわらず多くの人の年金が減ることも書かれていない。
「負担増なしに福祉国家を実現できる」と言わんばかりの公約だった。
その公約づくりを党代表として主導したのは、ほかならぬ小沢氏だった。子ども手当の額を上積みさせ、「財源はなんぼでも出てくる」と言い続けた。
現実には、子育て支援の充実も年金財政の安定も、増税なしには困難だ。だからこそ、3代の民主党政権が苦しみ続けたのではなかったか。
小沢氏は何をしていたのか。「むだを省けば、増税なしに財源をつくれる」というなら、具体的にこのむだを省けと政権に迫ればいいではないか。増税を試みた菅政権にも野田政権にも、そんな説得の努力をしたとはついぞ聞かない。
小沢氏自身、増税なしには社会保障の維持さえできないことはわかっているはずだ。だから、細川政権時代に7%の国民福祉税を導入しようとしたのではなかったのか。
いまさら「反消費増税」の旗を振るのは、ご都合主義が過ぎる。にもかかわらず造反議員らは「反消費増税」を旗印にした新党づくりを公言している。執行部は厳しい処分で臨み、きっぱりとたもとを分かつべきだ。
「果たせない約束」を掲げて政治を空転させることを繰り返してはならない。次の総選挙に向けて、政治が国民の信頼を回復する道はそれしかない。
http://www.asahi.com/paper/editorial20120628.html
一体改革、衆院通過―緊張感もち、政治を前へ6月27日
政権交代からまもなく3年。迷走を重ねてきた「決められない政治」が、ようやく一歩、前に進む。率直に歓迎したい。
社会保障と税の一体改革関連法案が衆院を通過した。
政権交代の時代、政党は「違い」を強調しがちだ。
そんななか、民主、自民、公明の3党が、国の将来に直結する重要政策で歩み寄り、共同責任を負う意義は大きい。
■緊急避難的な選択
衆院採決では民主党の小沢一郎元代表らが集団で反対し、民主党は分裂状態に入った。
野田首相が「政治生命をかける」とまで言った法案に反対した勢力が、このまま同じ党にい続けるのはおかしい。
首相と小沢氏はこの際、きっぱりたもとを分かつしかない。
政党が選挙で競い、勝者が公約を実行する。それが議会制民主主義の要諦(ようてい)なら、3党協力の枠組みはそれとは矛盾する。
しかし、与野党が角突き合わせ、身動きがとれない政治の惨状を打開するためには、やむをえない、緊急避難的な選択だと受け止める。
09年総選挙で、民主党は「消費税は上げない」と言って政権を射止めた。国の借金が1千兆円に迫るなか、それは無責任な「甘い夢」だった。
経済はグローバル化し、少子高齢化も進む。多くの制約のなかで、政治がとりうる選択肢は少ない。
民主党政権の混迷を決定づけたのは、10年の参院選の敗北による「ねじれ国会」である。
自民党もまた、政権を失うまでの2年間、福田、麻生両政権で「ねじれ国会」に苦悩した。
首相が1年おきに代わるなど、この5年、2大政党はともに重い代償を払ってきた。そのことが、結果として今回の枠組みに結びついた。
■なれ合い、政争排せ
この3党の協力態勢がいつまで続くかは見通せない。
衆院議員の任期切れまであと1年あまり。来年夏には参院選がある。選挙が近づけば近づくほど、政党同士が必要以上に違いを強調し、足の引っ張り合いが激しくなるのが永田町の通例だからだ。
実際、小沢氏らの造反で弱まった野田政権の足元を見るかのように、自民党はさっそく早期の解散・総選挙を求める声を強めている。
国民そっちのけの政争で、政治を停滞させる愚を繰り返してはならない。
逆の不安もある。3党が巨大な「数」をたのみに、手前勝手な方向に走り出すことだ。
その芽はすでに現れている。
原子力規制法案をめぐる3党の修正協議で、原発を稼働40年で廃炉にする条文を骨抜きにしかねない規定が盛られた。
3党はまた、原子力の利用は「我が国の安全保障に資する」ために確保するとの文言を原子力基本法に追加した。「原子力政策の憲法」が、十分な議論もないままに変更されたのだ。
自民党は、3年で15兆円の巨費を道路整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。この時代錯誤の提案に、民主党が歯止めをかけられるかどうかが問われる。
3党協力の枠組みは「両刃(もろは)の剣」である。
なれ合うことなく、緊張感をもって協力すべきは協力する。政権交代の時代にふさわしい政治文化を築く第一歩としたい。
■総選挙へ環境整備を
政治がいま、回答を迫られている課題は山ほどある。
たとえば、たなざらしのままの赤字国債発行法案や、最高裁に違憲状態と指弾された衆院の「一票の格差」是正だ。延長国会でこれら喫緊の課題を決着させる。それが最優先だ。
3党は、社会保障政策について「国民会議」で1年間、話し合うことで合意した。政権交代で与野党が入れ替わっても、多様な分野で政治を前に進めていく責任を分かち合う。そんなルールと仕組みも整えたい。
消費増税をめぐる政争の陰で先送りされてきた原子力政策、貿易自由化、震災復興など、日本の未来図にかかわる議論も加速しなければならない。
一体改革は必要だが、民主党政権が消費税は上げないという国民との約束に背いたのは間違いない。「予算の組み替えなどで16.8兆円の新規財源を生み出す」とした、政権公約の根幹が実行不能な幻にすぎなかったことはいまや明らかだ。
筋から言えば、ここは早期の解散・総選挙で信を問い直すべしという声が出るのは自然だ。
とはいえ、衆院の「一票の格差」を正さなければ、解散・総選挙はできまい。それには区割りと周知に数カ月かかる。
各党は、総選挙を行うための環境を早く整える必要がある。
そしてそれまでの間に、各党がしっかりした財源の裏づけのある公約を練り直すべきだ。
「国民会議」の議論は半ばになろうが、各党の主張は公約に反映させればいい。
http://www.asahi.com/paper/editorial20120627.html