昨日につづいて、今日は元日の地方紙の「社説」をみてみます。多くの社説が憲法や日米安保を書かなかった中で、愛国者の邪論が一覧した限りでは、安倍自公政権の「憲法改悪」が大きな焦点になってくるであろう今年の日本の課題にあって、憲法と日米軍事同盟について触れたものは、極めて少なかったというのが、感想です。
その中で、具体的に憲法と「日米同盟」を論じている沖縄の2紙と北海道、共同の「東京」「中日」に注目してみました。
北海道新聞社説 転機の日本に 国の針路と安倍新政権 政治に任せきりにすまい(1月1日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/430908.html
安倍首相は、憲法改定、国防軍の創設などを掲げ、平和主義など日本の戦後の路線を否定する意思が鮮明だ。外交では「断固として」などの言葉を繰り返して威勢がいい。 安倍氏の登場そのものが日本の転機をつくりだす可能性がある…声高に自国の立場のみを主張する外交姿勢では、国際社会で支持を失いかねない。仮に国民の喝采を得たとしても、それは危険な道である。 領土問題はあくまでも「理」を尽くして説得する。平和主義に徹して世界の人々と手をつなぎ、貧困や病苦の克服に役割を果たす―誇りを持ってそんな国づくりを進めるべきだと、わたしたちは考える。 転機に針路を決めるのは政治の役割だ。しかし、有権者は政治家に白紙委任を与えたわけではない。(引用ここまで)
ここまで書きながら、憲法9条や国連憲章に踏み込んだ論説とはなっていません。勿論憲法9条を書けば良いのかという単純なことを言っているのではありません。「自国のことのみを主張する外交姿勢」を戒めている憲法前文をありますが、多くの国民が、「何となく憲法を変えたほうが良い」、「憲法は旧い」観・感で、憲法を見ているのではないでしょうか?
そうした憲法に対する国民感情が醸成されてきたのは、改悪しようとする勢力の「感情移入」が働いていること、これにたいして友好な論陣が張られてこなかったことなどが原因として考えられます。だからこそ「感情移入」と同時に「歴史的理性移入」をしていくことをこそ、マスコミには求めていきたいと思います。
沖縄タイムス社説[正念場の沖縄]国際世論を動かす時だ2013年1月1日 09時30分
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-01-01_43430
中国の海洋進出や尖閣をめぐる強硬姿勢は、日本国民を不安がらせ、国民の嫌中感情をかきたてる。そうした国民の不安感を背景に、安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認や防衛計画の大綱(防衛大綱)の見直し、日米同盟の強化などを矢継ぎ早に打ち出した。 政府や一部メディアはここぞとばかりに、オスプレイの強行配備や米軍普天間飛行場の辺野古移設を中国の台頭と関連づけ、正当化し始めた。 新年早々、きな臭い話で申し訳ないが、実際、いやぁーな空気だ。…一地域に住む人びとの圧倒的な犠牲を前提にしなければ成り立たないようなシステムをこのまま放置し続けていいのか。政治家や官僚だけでなく、日本人全体に考えてほしい。臭い物にフタをして世界に向かって自国を誇るのは恥ずかしい。 沖縄の基地を直ちに全面撤去せよ、という極端な議論をしているわけではない。「オール沖縄の民意」をくんで日米合意を見直し、公正で持続可能な安全保障の仕組みを検討すべきだと言っているのである。…アジアの国際物流拠点をめざす国際貨物ハブ事業をはじめ、再生可能エネルギーやバイオ産業など、新産業分野の動きが活発だ。(引用ここまで)
「沖縄の基地を直ちに全面撤去せよ、という極端な議論をしているわけではない」という「沖縄タイムス」の主張が象徴的です。自嘲気味で言っているようにも思えますが、事はそのような悠長なことを言っている時ではないことは、「沖縄タイムス自」身が承知していることです。
米軍基地の「全面撤去」を「極端な議論」として論じている「沖縄タイムス」の立ち居地こそ、日米軍事同盟を抑止力として認めている「沖縄タイムス」の立ち居地です。こうした論陣が選挙戦の時に何を論じていたか、それをみれば、沖縄の、全国の米軍基地を温存させている実態が浮き彫りになってきます。
社説[きょう公示]公約の違い明確に示せ
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-12-04_42337
社説[憲法改正]重視したい沖縄の視点
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-12-06_42417
社説[公約を問う・地位協定]なぜ議論がないのか
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-12-08_42507
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-12-09_42542
社説[きょう投開票]違いを見極め一票を
http://article.okinawatimes.co.jp/article/2012-12-16_42814
それにしても、米軍基地の、日米軍事同盟の最前線に位置する沖縄のマスコミが、このような思想を堅持していることをみると、全国のマスコミの実態も当然といえば当然でしょう。こうした思想の状況を何としても変革していかなければ、沖縄の負担軽減も、国民の苦しみも克服できないことは明らかです。
この「沖縄タイムス」の「思想」については、今後、さらに系統的に検証していきたいと思います。
琉球新報社説 新年を迎えて/平和の先頭にこそ立つ 自治・自立へ英知を2013年1月1日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-200924-storytopic-11.html
わたしたちは戦後68年の年の初めに、まず「平和国家日本」の足跡をかみしめたい。同時に沖縄社会の望ましい未来を見据え、平和と自治、自立の在り方について、県民論議を重層的に深めていくべきだと提起したい。 戦争放棄をうたう日本国憲法、激戦地沖縄や被爆地広島・長崎が発する反戦・反核のメッセージ。それらは、歴史の教訓に学ぶ日本の映し鏡として、国際社会の日本観を醸成してきた。日本にとって貴重な「平和資産」と言えよう。 日本は「平和憲法」を生かし、世界平和の先頭に立つ。沖縄でもそれが議論の前提だと考える。…「多数決」の前に、「熟議」があって初めて政策の民主的正統性は担保される。自民、公明両党には自制心を持ってほしい。…日米合意を見直し、県外・国外移設、閉鎖・撤去への道筋を描き直すべきだ。 日米は自由、民主主義、人権尊重、法の支配を共通の価値観と喧伝(けんでん)する。ならば、アンフェアな沖縄政策も根本的に見直すべきだ。 一方、沖縄は道州制導入に積極的だった安倍首相の再登板を、自治権拡充の転機とする構想力や交渉力があってもいいだろう。2009年9月、沖縄道州制懇話会…「新沖縄州政府」像…「琉球自治共和国連邦独立宣言」…平和を着実に前進させたい。平和学の世界的権威の一人で、平和的手段による紛争解決のための非政府組織(NGO)「トランセンド(超越)」の代表であるヨハン・ガルトゥング氏は、戦争のない状態を「消極的平和」と捉え、貧困、抑圧、差別など安全や人権を脅かす「構造的暴力」がない状態を「積極的平和」と定義する。 目指すべきは「積極的平和」だ。軍事同盟では「構造的暴力」を解消できない。(引用ここまで)
「琉球新報」は「沖縄タイムス」に比べれば明快です。その点では「あっぱれ!」です。
しかし、憲法9条を高らかに謳いながら、沖縄の「平和と自治、自立の在り方」として、「沖縄道州制懇話会」「州政府」「琉球自治共和国連邦独立宣言」路線へ、そうして「消極的平和」から「積極的平和」へと論を進めながら、さらには、「軍事同盟では「構造的平和」は「解消できない」とまでは論じていても、日米軍事同盟廃棄を通して日本国のアメリカからの「独立」は展望しない、日米の「支配層」とは真っ向から向き合わないのです。ここに「琉球新報」の思想の到達点があるように思います。
自民政権奪還/暮らしの課題解決を 在沖基地押し付けは限界2012年12月17日
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-200399-storytopic-11.html
行き詰まりを直視するなら、基地政策の大胆な見直しが必要だ。それは日米関係の見直しに直結しよう。米国の言いなりでなく、自主的かつ対等な交渉が求められる。(引用ここまで)
こうした沖縄2紙の思想の原因は、日本国全体の憲法や日米安保の「思想」状況を反映したものであることは明らかですが、それにしても、「アジアの国際物流拠点」「積極的平和」を目指すのであれば、その思想を全国民に訴えていく「勇気」が必要ではないでしょうか?
沖縄の「帝国の南門」「太平洋の要石」「中国の防波堤」という位置づけを逆手に取ったアピールこそ、日本国民を、そして東アジアを、東南アジアを動かしていくのではないでしょうか?それは琉球王国以来の思想であるようにも思いますが、沖縄学の父といわれている伊波普猷、沖縄のガンジー阿波根昌鴻など、沖縄の輝かしい歴史遺産を、今こそ活かしていくことが大切ではないでしょうか?
【東京社説】年のはじめに考える 人間中心主義を貫く2013年1月1日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013010102000100.html
…満州事変から熱狂の十五年戦争をへて日本は破局に至りました。三百万の多すぎる犠牲者を伴ってでした。湛山の非武装、非侵略の精神は日本国憲法の九条の戦争放棄に引き継がれたといえます。簡単には変えられません。(引用ここまで)
「東京」も明快です。しかし、その「東京」にしても、「日米軍事同盟」に対しては、及び腰です。「十五年戦争」による「日本の破局」だけに眼を向ける思想からはアジアや欧米に対する「戦争責任」は出てこないでしょう。こういう認識と思想であるからこそ「日米同盟」に対して、以下のような思想になるのだと思います。
【社説】2012選択(8)沖縄米軍基地 耐えがたき、この断絶2012年12月14日
海洋進出を強める中国に対抗して、沖縄に基地を押し付けて日米同盟を強化する動きさえある。…この三年間で沖縄と本土との断絶は、耐えがたいほどに広がってしまったのではないでしょうか。日米安全保障条約が日本の平和に必要なら、基地負担は日本国民が等しく負うべきです。同じ国民として沖縄の苦悩に寄り添えるのか。政治家だけでなく私たち有権者の覚悟も問われているのです。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012121402000134.html
「日米同盟」の「強化」が沖縄県民にとって「耐えがたい」ものであるならば、何故「基地負担」を日本国民が等しく負うべき」ものなのでしょうか?「東京」のような思想では、1920年代から30年代にジャーナリストとして時の権力に真っ向から論陣をはり、その主張は「戦争の惨禍」によって証明された石橋湛山の教訓を活かしているとはとても思えません。今「東京」に必要なことは、石橋湛山の思想の教訓を、今に活かすことではないでしょうか?
もう一つ付け加えるのであれば、「若者、働く者に希望を」の項で論じている内容そのものは、共産党の主張とほぼ、というか全く同じであるということです。そこで論じられていることと、選挙期間中に「各党」を紹介する際の視点がどのようなものであったか、検証されねばなりません。何故ならば、日本のマスコミが国民に事実を伝えるという点においても、石橋湛山の爪の垢でも飲まなければならないと思うからです。
2012選択(5) 年金 若者の信頼を取り戻せ2012年12月11日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012121102000115.html
2012選択(6) 雇用創出 政治の意思が問われる2012年12月12日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012121202000124.html
2012選択(7) 命の問題 向き合ってくれるのは2012年12月13日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012121302000129.html
以上、長くなりましたので、これで終わります。最後に、
いずれにしても、日本国憲法の思想を、すべての日常生活のなかで意味づけ、具体化する。このことを徹底して貫けば、「日米同盟」、「日米軍事同盟」は廃棄されなければなりません。日本が進むべき道は、紛争の非暴力・非軍事による解決、すなわち平和的手段、話し合いによる解決の道こそが、世界に信頼される唯一の方策と言えます。
このスタンスを明確にすることでこそ、経済的・文化的交流も、国際的連帯も深まっていくことでしょう。そうしてこそ、諸民族・諸国民の暮らしも安定から発展へと突き進んでいくのではないでしょうか?そのことは憲法のあらゆる条文のなかに明記されているのです。