筋萎縮性側索硬化症
(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)
通称ALSは、重篤な筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患で、
運動ニューロン病の一種。
きわめて進行が速く、
半数ほどが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡する。
ただし、人工呼吸器の装着による延命は可能。
治癒のための有効な治療法は確立されていない。
ジョーズ先生は、60歳定年の二、三年前に発病。
原因不明で筋肉が萎縮して
自分で歩くことも
呼吸することも出来なくなってしまった。
頭は、まったく衰えない。皮膚の感覚も同じようにある。
私は高校生の時、
山に登っていた。
ジョーズ先生は、山岳部の顧問。
屈強な身体と軽快なあしどりでスイスイと前に進んで登っては、
ニコニコして、大きな岩に足をかけて
あえぎながら登ってくる私たちを
待っては、また道案内をしてくれた。
50代の先生方は、後ろからゆっくりついて来てくれた。
ジョーズ先生は、当時40代のずだが
10代半ばの私からは
とても若々しく
生き生きして見えた。
学校では、生活指導の先生で
校則違反が見つかると、
ジョーズ先生のめちゃくちゃ強い力で握手をされるのが嫌で
先生を見かけると
当時流行った映画「ジョーズ」から逃げるように
生徒が散らばった。
それで「ジョーズ」先生。
4年前にお見舞いした時は
「看病してくれた妻が、先に亡くなった」
と辛そうだった。
一緒に泣いた。
せめて、腕を摩る事しか出来なかった。
十数年前、発病当時ご自宅を訪ねたので
かいがいしく面倒を見られていた
奥さんの様子も知っていた。
写真の口にあるパイプを吹いて、
「レッツ チャット」を操り、
ひらがなを一文字一文字入力して
コミュニケーションをする。
それだけでもすごいのに
あの時は、「インターネットをするつもり」
と意欲を燃やしていた。
返って私の方が励まされた。
寝たきりで、声を失い、
人工呼吸機に繋がれながらも
車椅子で運んでもらい
自分の病気や「レッツチャット」の使用方法について
看護学校の生徒に講義したこともある。
目が遠く、補聴器も必要になり
さすがに七十代になって
不自由ながら
教え子たちと「メル友」なのがすごい。
前回のように私とすぐにはわからなかったみたいだけど
画面には「ひまわり先生」の文字。
わかってくれてよかった。
「写真撮っても良い?」
私の問いに、目配せ。
わずかに目元と
口の筋肉が動く。
「看護婦さんに怒られない?」
目配せ。
「先生、こどもたちに何を伝えたい?」
の質問には
「私の病状の変化」
だそう。
この十数年で身体の機能があっという間に奪われてしまった。
自分で動けないで
生きている。
刺激のない辛さ。
私なら、どうだろう?
あんなに前向きに生きれるだろうか?
高校では、物理、化学の先生だった。
今は、サイエンスに関してインターネットで情報を得るのが楽しみ。
宇宙に関するメールが定期的に届く。
医学が発達して
この難病が治る日が来るのが待ち遠しい。