◇テーラー 人生の仕立て屋(Tallor)
地味ながら、ちょっと現実離れしつつも、現実の余韻をただよわせる作品を、監督のソニア・リザ・ケンターマンはめざしたんだろうけど、老舗の仕立て屋として生きてきた父親が倒れたことで店を継いでひとりだちしなくちゃいけなくなったディミトリス・イメロスの物語というのであれば、それに徹するべきだったんじゃないかな。
隣に住んでるタクシー運転手の娘(小学生)が彼を応援したいっていうんなら、その絆を臍にした、運転手とのほのぼのした友情物語っていう筋立てもあったはずなんだけど、その妻タミラ・クリエヴァが仕立てを手伝ったことで恋が生まれちゃうっていう展開はかなり抜き差しならないもので、後味を悪くする。
屋台のテーラーっていう発想はおもしろいし、それをひいていくのがスズキのバイクっていうのもいいし、まあラストはベンツかなんかのワゴンになるんだけど、そういう段階を経た感じもいいんだけど、差し押さえになった店の中が荒らされ、殴りつけられたような跡があるのはあきらかに運転手の夫の仕業で、このあたり、きわめてばつのわるい妻の心がつらいし、どうもね~。