Creator's Blog,record of the Designer's thinking

毎月、おおよそドローイング&小説(上旬)、フィールド映像(中旬)、エッセイ(下旬)の3部構成で描き、撮り、書いてます。

ドローイング400. 小説:小樽の翆329. イーブン

2021年03月01日 | Sensual novel

 

 久しぶりに雪の晴れ間がのぞく。陰鬱な毎日だから、たまには気分転換に夕焼けを描きにゆこう。冬がくれたボーナスだな。もちろん寒いことに変わりはない小樽の街だ。

 さて港の夕焼けを描いてチクコウのカフェで暖をとる。

ここをたまり場にしている美希姉ちゃんと彼氏がいる。気づかないふりをしていても、目ざとい輩だし、人に声をかけることに躊躇しない。

これが普通の高校生だったら、見つからないように知らないふりをして小さくなっているか、しかとしているかもしれない。最近そういう他人行儀な高校生が多いんだ。

だから知ってる人を見たら、声をかけずにはおれない美希姉ちゃんのキャラクターがとても心地よい。お互いの立場がイーブンなんだ。そこがいい!。

美希「綺麗な夕焼けだったね、オジサンも描いていたんだ」

「うん、こうした稀なチャンスは、外せないよ。期末試験は終わったかい?」

美希「今日でやっと終わった。ながかったよーーん。明日からは高校も修了式までお休みなんだ。だからバイトにゆく!」

「なにするの?」

美希「札幌駅構内のファーストフードかなぁー。それに週一で文さんのお店もあるし・・・」

「そんなに稼いでゴムでも大量買いかなぁー」

美希「オジサン、発想が短絡的よ・・。写真学校へゆく学費を稼がなきゃ」

「おっ、感心な心がけ、機材は?」

美希「彼氏の、これ!、EOS1DX!!、いいよね、これ使っていて」

直人「はいはい、ご自由に使ってください。ボクより写真が旨いんだから応援します」

「直人君は、高校でたらどうするの?」

直人「グラフィックデザインをしようかな。札幌の大学でしょう。公立じゃ札幌芸術大学しかないけど」

「美大にゆくんだ」

美希「だから彼、目下美術室にこもって、実技試験の傾向と対策をしているの。彼、編集が旨いの。だからデザインを勉強して出版社のデザイナーを目指すんだって」

「フォトグラファーに編集者のカップルか。なかなか好い組み合わせだな」

美希「でしょう、それで将来は二人で稼ぎまくるの」

カップルは、お互いの能力分野が類似しているからこそ一緒になる場合がある。お互いに話題の共通性があるからだろう。それって結構大切なカップルの条件かもしれない。

人間の将来目標の定め方に二つの方法がある。

一つはアチキみたいに将来目指したいものを定めて、それに向かって努力してゆく場合と、もう一つは今ある関心分野と能力の延長で将来を定める場合とである。彼らは後者の堅実な生き方を選んだんだ。それが最近の傾向なんだろう。

美希「これから帰るんでしょ。途中まで一緒に帰ろうよ」

このあたりの心遣いが美希姉ちゃんらしい。こういう性格ってフォトグラファー向きなのかもしれない。

・・・

すっかり暗くなった小樽の空は晴れている。それも今夜限りだ。明日からまた吹雪くだろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする