デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

クッキン

2006-10-08 07:18:37 | Weblog
 先週から家内が関東方面に旅行に出かけており、KAMI さんのお店にも寄らせて頂く予定になっている。手作りケーキを楽しみにしているようだ。一人の小生は、「男子厨房に入らず」ともいかず、近所のスーパーで霜降りも立派なら値段も立派な牛肉を買って来た。料理の本を開いてみると、ステーキは焼く前に常温にしておく、と書いてある。男の料理は入れたばかりの肉を冷蔵庫から取り出すことから始る。

 料理なら私にお任せよ、というジャケットはズート・シムズの「クッキン」で、ロンドンでのセッションを収めている。料理番組のテーマ曲が聴こえてきそうなジャケット写真は、おおよそジャズ・アルバムとは思えないが、「サヴォイでストンプ」「 ラヴ・フォー・セール」「枯葉」といったスタンダードを、ズート節で吹きまくっている一枚だ。タイトル通り一流シェフの絶妙な味付けで料理している。

 ズートはソニー・ロリンズのような豪快さもないし、同じウディ・ハーマン・フォー・ブラザーズ出身のスタン・ゲッツにバラードでは一歩譲るが、ミディアム・テンポでは比類ない巧さをみせる。レスター・ヤング直系の滑らかさにドライブ感を加えたそのスタイルは、モダン・テナーの代表ともいえる。このドライブ感という形容はズートのためにあるようなものだ。ビル・クロウ著の「さよならバードランド」に、ズートについて書かれている。酒好きで演奏中ウェイターがグラスを放り投げると器用に受け取り、飲んでは演奏を続けていたという。飲むほどに、酔うほどにドライブするフレーズに、こちらも酔ってしまう。

 ミディアムに焼きあがった肉と、上級ではないがミドルクラスのワイン、それにヴォリュームを上げたスピーカーから流れるズートのミディアムでドライブするテナー。舌も鼓膜も踊る。時に一人もまた良い、と思ったのも束の間、食べた後は洗い物が待っている。「台所は女の天下」と決め込む。
コメント (32)
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