デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

パリの四月

2007-04-22 07:49:20 | Weblog
 「ケ・セラ・セラ」のヒットで知られるドリス・デイが主演した映画「パリの四月」が製作されたのは53年だった。映画でドリスが同名の主題曲を歌っていたので、コールマン・ホーキンスの名演はその後かと思ったら45年録音と映画より古い。通常、映画の主題曲がヒットしたあと多くのプレイヤーが取り上げるケースが多いので、調べてみるとオリジナルは更に古く、32年のミュージカル「ウォーク・ア・リトル・ファスター」に遡る。

 カウント・ベイシーの「one more time!」という掛け声で何度も繰り返されるエンディングでお馴染みの「パリの四月」は、その美しく洗練されたメロディから名演、名唱は数多い。フリーマンと署名のあるジョー・ウィリアムスをデフォルメしたジャケットは、63年のニューポート・ライブ盤だ。「パリの四月」も収録されていて、ジョーはメロディラインをストレートを歌いだし、クラーク・テリーはその美しいラインに彩りをつけ、続くホーキンスは聴衆を包み込むような大きさでかつての名演を彷彿させる。他にもハワード・マギー、ズート・シムズも参加したセッションはアンコールの声が止まず、ニューポートの興奮が伝わってくる素晴らしさだ。

 今も昔も女性ヴォーカルが持てはやされ、男性陣の影が薄いジャズ・ヴォーカル界は寂しいものがある。女性にしか表現できないものがあるように、男だけが持つ逞しい表現と、男ならではの魅力もあるものだ。ジョー・ウィリアムスはベイシー・バンド専属歌手の経験から、スウィング感は抜群で、伸びのある声質はビッグバンドに映える。ピアノトリオをバックにしっとりと歌い上げるヴォーカルも味わい深いが、管楽器を配したダイナミックでリズミカルなジョーの歌は足取りが軽くなる四月にはうってつけだろう。

 「ケ・セラ・セラ」、「ボタンとリボン」、「モナ・リザ」等、日本でも親しまれた曲を作詞したレイ・エバンズは、今年92歳で亡くなっている。「ケ・セラ・セラ」はラテン語で、「なるようになる」という意味だ。スローライフが唱えられる今、なるようになるとのんびりした生き方が長寿の秘訣らしい。
コメント (23)
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