デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

あなたと夜とポール・スミスと

2007-12-16 08:43:09 | Weblog
 この時期、酒屋の店頭に煌びやかなパッケージに包まれたシャンパンが並ぶ。クリスマス用だという。華やいだシュチエーションに発泡ワインは欠かせないようで、映画の小道具としても効果的な演出をしている。アメリカ的なサクセス・ストーリー「ショーガール」、ジュリア・ロバーツが娼婦に扮した「プリティ・ウーマン」、そして永遠の名作「カサブランカ」でも愛を語る透明に近い黄金色が輝いていた。

 シャンパングラスを持つ紅いマニュキュアの指先が美しいジャケットは、ポール・スミスの「Cool & Sparkling」で、54年当時には珍しい室内楽風の落ち着いたアンサンブルが楽しめる。スミスというと馴染みの薄い名前だが、あのエラ・フィッツジェラルドの名盤「イン・ベルリン」で、舌を噛むスピードのスキャットに、それ以上の速さでバッキングするピアニストだ。地味ながらテクニックは抜群で、唄伴にも定評がありパット・ブーンやサミー・デイヴィスが来日したときに伴奏者として指名されたほどである。

 フルートやクラリネットの柔らかい音色を生かしたスミスの室内楽風のジャズは、リキッド・サウンドと呼ばれた。淀みなく流れるせゝらぎの透明感と、タイトルにも使われているスパークリングワインのような喉越しの爽やかさによるものだろう。54年というとバードバップ全盛期である。個々のインプロヴァイズを重視したホットなジャズが若者に受け入れられる一方、巧みな編曲を施したクールなジャズも人気があった。近年益々多様化するジャズだが、この当時からジャズに求めらるものは動と静なのかもしれない。

 このアルバムに収められている「あなたと夜と音楽と」は、タイトルのイメージを活かしたアレンジで一際気持ちが良い。クリスマスに「あなた」と過ごす夜は、音楽を欠かせないだろうし、シャンパンも必要だろう。ドン・ペリニヨンを開けて、ジャケットのような美しい「あなた」に注いでみよう。決め台詞はこれだろうか。「君の瞳に乾杯!」
コメント (42)
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