デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

バードがウォルター・ビショップJr.に払わなかった7ドル

2008-05-04 08:30:18 | Weblog
 ロバート・ジョージ・ライズナーはその著書「チャーリー・パーカーの伝説」で、パーカーと親交があった多くの人の証言をまとめている。伝説化された天才の人間像を浮き彫りにしたバード評伝の決定版であり、そこから見えてくるのは何をしても、それがたとえ悪事であっても憎めない愛すべき人間臭いバードだった。「彼と対等にわたりあう唯一の方法は、自分のものの考え方を、バードとおなじように確固たるものとして持つことだった」

 こう回想しているのは、バードと3年ほど付き合いがあったウォルター・ビショップJr.である。当時のプレイはバードの「スウェディッシュ・シュナップス」や、ラスト・セッションの「プレイズ・コール・ポーター」で聴けるが、バップ期のピアニストが誰でもがそうであったようにバド・パウエル直系のスタイルで、歌心に富んだフレーズと力強いタッチが特徴だ。ビショップは50年代のほとんどを現役から遠ざかっていたこともあり、実力の割には評価もされず、人気にも恵まれない人であった。実力と人気は比例しないのが世の常であるが、バードと対等にわたりあう考え方を持ったビショップこそバップ・ピアニストとして評価されるべきだろう。

 「スピーク・ロウ」は疑いなくビショップの代表作であり、Jazztime という3枚のアルバムを残しただけで活動を休止したレーベルの作品としても貴重なものである。「サムタイム・アイム・ハッピー」、「グリーン・ドルフィン・ストリート」と、お馴染みのスタンダードの選曲に加え、ジミー・ギャリソンの強靭なベース・サポートも見逃せない。タイトル曲の「スピーク・ロウ」はこのアルバムの白眉で、数ある同曲のベスト・チューンといえる渾身の一曲だ。24小節を大きな音で力強く弾きながら、曲の真ん中あたりを非常にソフトに演奏するという構成は他の曲でも聴かれるが、これはバードと演奏して身に着けたもので、駆け出しのころは知らない曲を演奏することが多く、内部の細かなコード進行を探るためだったという。

 多くの証言によると、バードは雇ったミュージシャン達に金を払わなかったそうである。ビショップもバードからの未払い金が7ドルあったようだ。これからもまだバードと一緒に仕事ができるのだからと見過ごしていたそうだが、未払いの事実はバードにも悟らせておいたと回想している。きっとspeak low ~小声でそっと話したのかもしれない。 
コメント (23)
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