デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジミー・ジュフリーの花が咲くとき

2008-06-01 09:05:23 | Weblog
 ウディ・ハーマンのセカンド・ハードが、スタン・ゲッツ、ハービー・スチュワート、ズート・シムズ、サージ・チャロフという夢のようなサックス・セクションで脚光を浴びたのは40年代末であった。代表作の「フォア・ブラザーズ」は、サックス4本のアンサンブルによるテーマが転調しながら延々と続き、4人の短いながら変化のあるソロをはさんだ名演で、演奏陣も見事なら作編曲もまた優れたものだ。幾つかのカバーは、このオリジナルを意識したもので、崩せないほど完璧であることを物語っている。

 この名アレンジを施したジミー・ジュフリーが、4月に亡くなったのを最近知った。映画「真夏の夜のジャズ」の冒頭を飾った映像で在りし日の姿を思い出す方もあろう。この時の演奏が示すように、ジュフリーが58年当時目指していたのは、フォーク・ジャズ的要素を持ったものであった。彼の吹くクラリネットやテナーは、レスター・ヤングのようにビブラートが稀薄でかすみがかかり寛ぎさえ覚えるが、その音色とは裏腹に音楽性は進歩的であり、且つ革新性の強いものだった。時代の先を行くジャズゆえ理解者は少なく、常に思索する音楽家として位置付けられていた。

 58年の作品「ウェスタン組曲」は、ジム・ホールのギターとトロンボーンのボブ・ブルックマイヤーと組んだ変則トリオで、西部の大草原をイメージさせる組曲と、スタンダードの「トプシー」と「ブルー・モンク」という構成だ。組曲は音楽理論を追求した難解なものだが、スタンダードは極自然な4ビートでスイング感もあり、このアルバムからも思索するジュフリーの断片が窺える。全体を通して興味深いのはドラムレスでリズムを想定しており、この場合3人が同じリズム感覚を持たないことには一体感が失われるのだが、同調されたリズム感を共有しているのは見事なものだ。そしてベースなしで、ベースラインを刻むという高度なテクニックをホールは披露している。ハーモナイズド・ベースラインと呼ばれるもので、ベースラインの上に更にコードを乗せるという奏法らしい。ホールはこの高度な演奏を必要とされたためストレスが溜まり、髪が抜けてしまったそうだ。

 ジャケットの最大15メートルくらいまで成長するというサワロカクタスが花を咲かす時期は知らぬが、サボテンの代表品種「金鯱」は、開花するまで30年前後かかるという。理解者の少ないジュフリーの音楽に花が咲くのはいつのことだろうか・・・合掌。
コメント (16)
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