デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズ・ピアノの父、アール・ハインズに感謝をこめて

2008-06-15 07:24:23 | Weblog
 とうさん、とうちゃん、とっつあん、ととさま、父を呼ぶ言葉である。語源を調べてみると「ちち」は母音交代により「てて」になり、幼児語の「とと」にもなり「と」が付くらしい。父親を親しんで呼ぶ語に「親父」があるが、こちらは「おやちち」が転じ語のようだ。呼び方は様々だが、6月第三日曜日の今日は父に感謝を表す日である。ジャズ・ピアニストばかりか、ジャズ・ミュージシャンそしてジャズ・ファンが感謝する父というと・・・

 Earl "Fatha" Hines ジャズ・ピアノの父アール・ハインズである。ルイ・アームストロングのホット・ファイヴで不朽の名演を残したそのホーンライクな奏法は、トランペット・スタイルと称されるもので、ルイのトランペット奏法を力強い右手のシングル・トーンで表現したものだ。加えて左手のベース・パートもそれまでの通念であった画一的な単純な動きではなく、複雑でより開放されたリズムにより躍動感を生む。同じスイング期のファッツ・ウォーラーやテディ・ウィルソンが後進ピアニストに与えたものも大きいが、ハインズのフリージャズの時代にまで影響を及ぼしたスタイルは、 "Fatha" の称号に相応しいものだろう。

 コンタクト盤の「ヒア・カムズ」は、リチャード・デイヴィス、エルヴィン・ジョーンズというコルトレーン・カルテットを支えた強力なリズム陣との異色の顔合わせに驚く。66年録音当時、ハインズ61歳、デイヴィス36歳、エルヴィン39歳、還暦を過ぎたハインズから見ると子どもみたいなものだが、世代を超えたセッションは互いの持ち味を存分に発揮したエネルギッシュな作品である。このアルバムのハイライトともいえる「ザ・スタンリー・スティーマー」では、デイヴィスのウォーキング・ベースに絡むハインズがゾクッとするほどスリルがあり、エルヴィンのシンバルワークは火花を散らす勢いだ。偉大な父の前で緊張しながら「親爺」と尊敬の念で呼ぶ子どもに、ジャズ・ピアノの父の眼差しは優しい。

 日本では母の日に比べ印象の薄い父の日だが、アメリカで始まったのは100年ほど前であり、アメリカでは国民の祝日に制定されている。家庭のことは母親に任せきりで、子どもを叱らない父親が増えた昨今、父権も失われつつあるが、今日の父の日くらいは父に感謝を表したいものだ。
コメント (23)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする