デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

時さえ忘れるゴルソン・ハーモニー

2008-06-08 07:06:57 | Weblog
 スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演の映画「ターミナル」は、エスクァイア誌に掲載されたジャズメンの集合写真が重要な要素であった。ストーリーは社会的立場を無くした人間の心理と行動を描いたものでスピルバーグらしさのあるヒューマンドラマである。釈然としないエンディングや、ジャズをモチーフにしているのバックにジャズはあまり流れず、と少々不満も残るが、ハーレムで写された集合写真の一人、ベニー・ゴルソンがジャズクラブで代表作「キラー・ジョー」を吹くシーンはゴルソン・ファンには見逃せない。

 58年に撮影された集合写真の経緯は、ドキュメンタリー・フィルム「ア・グレイト・デイ・イン・ハーレム」で知ることができるが、58人ものジャズミュージシャンを1枚の写真に収めるのは容易なことではなく、写真家のアート・ケインの熱意はジャズファンならずとも心打たれる。苦労の末写した写真もメアリー・ルー・ウィリアムスやロイ・エルドリッジは横を向き、ディジー・ガレスピーは舌を出す道化ぶりで、音楽以外は協調性を持たず勝手な行動をとるジャズメンの姿を如実に写し取っていた。半世紀前の写真ともなれば、現存するプレイヤーは少なく、映画ではいまだ現役で活躍するゴルソンに白羽の矢が立ったのだろう。

 写真が写された翌年、59年に吹き込まれた「Groovin' with Golson」は、名盤として名高い「ブルース・エット」の後に吹き込まれたもので、ここでもカーティス・フラーが共演している。レイ・ブライアント、ポール・チェンバース、そしてアート・ブレイキーという当代きってのリズムセクションをバックに奏でるいわゆるゴルソン・ハーモニーが美しい。「ブルース・マーチ」や「アイ・リメンバー・クリフォード」等、作曲家としてのゴルソンの才能も抜きん出ているが、編曲家としても巧みで、まるで自作を飾り付けるような自在さを持つ。名コンビ、ロジャース&ハートの「時さえ忘れて」が収めれており、テーマ部の2管の絡み具合は作者以上の名コンビであり名編曲でもある。

 「ビッグ・ピクチャー」と呼ばれるジャズ・フォト史上不滅の集合写真は、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションになっていることからも、その貴重性と価値の大きさがわかるだろう。写真の最後列にアート・ファーマーと肩を並べているゴルソンは、映画でも写真から時代を超えて抜け出た笑顔をみせていた。ゴルソン・ハーモニーを聴く度、時さえ忘れる。
コメント (23)
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