デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

日野皓正の自然体を映したラッシュ・ライフ

2008-06-22 08:27:44 | Weblog
 先日、当地で催された日野皓正クインテットを聴いた。新宿ピットインで聴いて以来30数年ぶりになる。白木秀雄のバンドに参加したころから日本ジャズ界の最先端を歩んできた日野さんは65歳になるが、いつも若手のメンバーに囲まれているせいだろうか、とても若々しい。ピットインの空気を一瞬で変えてしまう当時と変らぬ攻撃的なトーンを聴くと、老けたはずのこちらまで青々としてくる。

 かつて有馬記念のスタート前にソロを吹き、中山競馬場内を静まり返らせた愛用のトランペットは某楽器メーカーの特注によるものだが、そのメーカーの貸し出し書にサインをして借りているものだという。自分の楽器でありながら、自分のものではないという奇妙な楽器だが、日野さんによると、このメーカーが外国人プレイヤーに楽器を提供すると本国に帰って直ぐに売り払うことから、このような貸し出し形式をとっているそうだ。どうやらアメリカではチャーリー・パーカーの時代から楽器は質屋の店頭に飾ることになっているらしい。

 85年の「トランス・ブルー」は、ストリングスを配しエディ・ゴメス、ジム・ホール、 ケニー・カークランド、そして歌うドラマー、グラディ・テイトも参加した作品で、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」をはじめスタンダードを叙情的に歌い上げている。何度も繰り返し演奏した曲は、ともすると手癖が出てしまい新鮮味に欠けるものだが、サイドメンに鼓舞されバラードの新境地ともいえる展開は、日本のトッププレイヤーに恥じないスタンダード集に仕上がった。このアルバムの最後を飾るビリー・ストレイホーンの「ラッシュ・ライフ」は、活き活きとした珠玉のフレーズを紡いでゆき、日野さんの青々とした人生を映しているようだ。
 
 ライブの場とは違い地方公演では、普段ジャズに馴染みがない方へのサービスもみられる。美空ひばりの「川の流れのように」を切々と吹き会場を沸かしたが、川の流れのような自然体が新鮮なアイデアを生み、Lush Life ~若々しい人生を歩む秘訣なのかもしれない。
コメント (23)
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