デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

スウィングピアノ・エッセンス・テディ・ウィルソン

2008-11-02 07:55:46 | Weblog
 秋というのに季節を間違えたのだろうか、タンポポが咲き、リンゴの花が開いたという。ここ北海道でもこの時期になると、冬の訪れを告げる風物詩である雪虫が飛び交うものだが、その姿もみない。今年の8月に稚内市で最低気温1・5度を記録し、115年ぶりに更新したときは真夏だというのにセーターを引っ張り出したものだが、ここ晩秋の日中は半袖でも過ごせるほど暖かい。異常気象は生態系を揺るがすというが身近にみる思いだ。

 背景の木々は秋色なのに寄り添う恋人の服装は半袖、今年の晩秋そのままのジャケットはテディ・ウィルソンの「フォー・クワイエット・ラヴァーズ」である。気心の知れたミルト・ヒントンとジョー・ジョーンズをバックにオリジナルとスタンダードをほどよく織り交ぜた作品は、必聴ジャズピアノ・アルバムに挙がることはないが、スウィング・ピアノのエッセンスを味わうなら最高の1枚だ。派手さもなく飾り付けることもない、それでいて華麗に響く珠玉の一音一音こそテディの身上であり、明快にスウィングすることの喜びや、三位一体となったピアノトリオの醍醐味をも楽しめる贅沢な作品といえるだろう。

 エリントン楽団でアンカー・マンとして活躍したハリー・カーネイは、もっとも過小評価されているジャズマンとしてテディ・ウィルソンを挙げていた。今でこそジャズの世界に人種差別はないが、ウィルソンは閉鎖的だった36年にベニー・グッドマン・トリオに参加したことでその壁を破った人なのだ。白人と黒人が利用するホテルが色分けされていた時代にグッドマンの英断も見上げたものだが、ウィルソンの勇気は賞賛に値するものであり、その後のジャズ界に及ぼした影響は計り知れない。それは差別という言葉をなくしたことは勿論だが、そのピアノスタイルはモダンの時代のピアニストにとっても手本とされたものだ。

 時期に合わない無用の事物を夏炉冬扇というが、氷点下に近い夏に炉を用意したり、冬を前に扇を取り出す方もあろう。灯油も値上がりしている昨今、北国に住む人にとって夏炉は困るが冬扇は歓迎される。
コメント (16)
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