デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジム・ホールは髪で悩んでいた

2009-03-01 07:55:34 | Weblog
 「もったいない むだ毛処理する 娘の毛」、「かきあげる 仕草にあこがれ 頭かく」、「パソコンで 少し髪の毛 足してみる」、日本自毛植毛センターが募った薄毛への悲哀を詠んだ毛髪川柳だ。多くの人が経験する髪の悩みをユーモアたっぷりに表現していて、そこはかないペーソスさえ漂う。「会議室 座るの最後 立つの先」そんな風景を目にされた方、いや自分かもしれない人もおられるだろう。

 ジャズ界で抜け毛に悩んだ人にジム・ホールがいる。チコ・ハミルトンのバンドでその実力を広く知られるころは当然フサフサとした髪だったが、ジミー・ジュフリーと共演したことでジャケット写真の頭に変った。ジュフリーがホールとボブ・ブルックマイヤーで組んだ変則トリオは、ドラムレスでリズムを想定し、さらにベースなしでベースラインを刻むという高度なテクニックが要求されたため、ホールはこのストレスで髪が抜けてしまったそうだ。ホールが研究したベースラインの上に更にコードを乗せるハーモナイズド・ベースラインと呼ばれる奏法は、その後の多くのギタリストに影響を与え、髪の毛を犠牲にしたアイデアはその頭のように輝きがある。

 76年の来日時に東京で録音された「Jazz Impressions of Japan」は、「無髪歌」、いや「無言歌」という邦題が付けられ、当時ダイレクトカッティングで録音されたことも話題を呼んだ。ドン・トンプソンとテリー・クラークのサポートを得て、ホールの美しい絃の響きと甘美でデリケートなアドリブラインは一層冴え渡る。70年代は Sheffield Lab レーベルを筆頭として高音質を謳い文句に多くのダイレクトカッティング盤がリリースされたが、どんなに録音技術やカッティング技術が優れていたとしても演奏が優れていなければオーディオファイル向けのチェックレコードにしか過ぎない。「無言歌」はジャズファン、ギターフリーク、そしてオーディオマニアをも唸らせるアルバムであろう。

 ホールはジュフリーと共演後、62年にアート・ファーマーとグループを組み、知的な相互作用によるスリリングな展開はハーフノートのライブに記録されている。ホールより2歳年上のファーマーは、いつもホールに敬語を使ったという。毛髪川柳の一句、「頭見て 敬語使うな 年下だ!」と思ったに違いない。
コメント (20)
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