デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ウェスト・コーストの風になったバド・シャンク

2009-04-19 07:55:15 | Weblog
 彼は50年代初頭に広くポピュラーな存在になっていたが、それはレコード会社の手で「ニュー・バード」という売り出し方をされていたからである。アルト・サックスを手に取った若手なら誰でもそうだった。それはあまりにも過ぎたやり方で、彼にとってもまだ早すぎるものだった。彼は確かに完璧なプレイヤーだったが、当時の彼はイノベーターでもなければ、際立ったオリジナリティを持つソロイストでもなかった。

 ロバート・ゴードンの著書「ジャズ・ウェスト・コースト」の一節である。彼とは4月2日に亡くなったバド・シャンクで、チャーリー・バネット楽団でデビューしてから今日まで大きな注目を浴びることはなかったが、常に第一線で活躍した人だ。ローリンド・アルメイダと組みアメリカでボサノバが流行する以前からブラジル音楽を取り入れたり、インド音楽とジャズの融合をはかったこともあり音楽に向かう姿勢は意欲的だった。アルトは勿論のこと、フルート、クラリネット、テナーにバリトンまで完璧に吹けるプレイヤーで、その器用さがゴードンの指摘するオリジナリティの稀薄さなのかもしれない。

 多くのセッションに参加し、自己のアルバムも数多いシャンクだが、56年の「ザ・バド・シャンク・カルテット」はクロード・ウィリアムソンの好バッキングもあり、余すことなく西海岸の陽光を浴びた爽やかなアルトと美しいフルートを楽しめる。アート・ペッパー、ハーブ・ゲラーと並んでウェスト・コースト白人アルト奏者御三家と言われていたころの作品で、「ニュー・バード」という閃きはないが、「ニュー・アルト」と呼べる新鮮なフレーズはカラッとした明るさがあり、収録曲「ウォーキン」の足取りも軽い。「ネイチャー・ボーイ」は澄んだ音色のフルートで奏でられ、同じパシフィック盤「Bud Shank Quartet」のジャケット写真のような屈託のない笑顔は自然にふるまう少年の如しである。

 レコード店で見かけると思わず手に取り、飾りたくなるイラストのジャケット、レコードを取り出すだけで広がってくるウェスト・コーストの柔らかい風、針を降ろすと同時に聴こえてくるしなやかな音、夢が広がるアルバムを残してくれたことに感謝したい。享年82歳。合掌。
コメント (37)
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