デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

黒岩静枝さんが歌い続けた45年

2010-10-17 07:40:32 | Weblog
 スージーの愛称で呼ばれる黒岩静枝さんの歌手生活45周年を記念したリサイタルが今月9日に開かれた。当日は地元のファンはもとより、小生の隣に座られた大阪の女性、遠くは九州から駆けつけた方や岩浪洋三さんの姿も見える。北海道を拠点に地道に活動されているジャズ・シンガーだが、日本中を駆け巡って歌い続け、各地でファンを増やしてきたひとだ。いまや全国区といっていい。

 歌手に限らず、どんな職種であっても45年に亘って同じ道を歩み続けるのは並大抵ではない。ましてシンガー、それもジャズとなると極めて困難なことは今の日本のヴォーカル界をみても容易に察しがつく。「人と人の心をつなぐのは歌だ」という黒岩さんの信念に基づき、養護施設でチャリティ・コンサートを開くのを惜しまない。100歳近いおばあちゃんに、「あんたの歌を聴くと元気がでるよ」と言われたそうだ。人を元気付け、勇気を与えることは、そのまま黒岩さんのエネルギーになるのだろう。体調を崩して入院したり、歌うことが嫌になったりと、その45年は大きな岩にぶつかりながらも砕いてきた道だ。

 「Oneness」は45周年を記念したアルバムで、タイトルは「一人じゃない、みんなつながって一つなんだ」という思いが込められている。スタンダード中心の選曲で、この歳になってようやくこの曲を歌えると紹介した「ラバーズ・コンチェルト」や、97年にジョン・ヒックスと共演したアルバム「Mind Meet Mind」でも取り上げた「エンジェル・アイズ」、「ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ」を、ビッグ・フォーで知られる市川秀男さんのピアノ、吉野弘志さんのベース、北海道で一番歌うドラマー、佐々木慶一さんのトリオをバックに豊かな声量で歌う。スタンダードは歌い込むほどに表現力を増し、自分だけの表現力をも持ちえるのだろう。

 札幌薄野にある黒岩さんがオーナーの店「Day By Day」の入り口には、「人生60歳までリハーサル、60歳からが本番」と書かれている。動もすれば挫けそうになる人生もリハーサルと思えば気が楽になるが、毎日毎日の努力を怠ると人生はリハーサルのままで終わる。毎日毎日歌い続けるシンガー、黒岩静枝は本番の人生を歩んできたひとだ。歌手生活半世紀にあたる50周年のリサイタルでさらに大きな歌を聴きたいと願うのは小生だけではあるまい。
コメント (19)
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