デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

愛は海よりも深く、アーヴィング・バーリンの志は山よりも高い

2010-11-07 07:40:13 | Weblog
 大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカル「アイ・ラブ・ア・ピアノ」が、ここ札幌で開催される。アメリカのさまざまな歴史を1910年に作られたピアノを通して描いたもので、ガーシュインをして「アメリカのシューベルト」と言わしめたアーヴィング・バーリンの作品が60曲以上登場するという。世界で最も売れた「ホワイト・クリスマス」や、アメリカでは第二の国歌として親しまれている「ゴッド・ブレス・アメリカ」等、バーリンが書いた曲は1000曲以上に上る。

 なかでもジャズメンがよく取り上げる曲といえば「How Deep Is The Ocean」で、そのメロディの美しさからバラード表現の真価を問われる難曲だ。ピアノトリオかワンホーンでじっくり聴くべき曲なのだが、テナー奏者4人でつなぐ演奏がある。「Tenor Conclave」というおどろおどろしいタイトルが付いているプレスティッジお馴染みのオールスター・セッションの一つで、「Conclave」は、ローマ教皇を選出する選挙システムの意味だから、立候補者4人がそれぞれの主張を訴える内容ということだろうか。人気も実力もマニフェストも拮抗している4人なら選挙戦で争うには根性も比べられる。それでコンクラーベという。

 先陣を切って飛び出すのはアル・コーンで、短いソロながら凝縮されている。レッド・ガーランドが橋渡す形で2番手のズート・シムズに引き継ぐ。コンビのコーンの後ということもあり前者の韻を踏んでいる。続いてポール・チェンバースのアルコソロを挟み一際大きな音で登場するのがジョン・コルトレーンだ。全体の空気が変わるほど前者2人とは明らかにアプローチが違う。そして最後を締め括るのはハンク・モブレーで、アンカーらしい落ち着いたフレーズで決める。録音された56年という時点でそれぞれスタイルは確立されており、将来のテナー界を担うだけの実力を備えている。その後大きく変貌するコルトレーンは別にしての話であるが。

 バーリンが、「愛は海よりも深く、山よりも高い」という詞も曲と同時に書き上げたのは1932年に発表される数年前だという。これほど心打つバラードの発表が何故遅れたかというと、当時バーリンは極度のスランプに陥っており発表する自信がなかったそうだ。幾多の名曲を書いた才能溢れる作曲家も悩み苦しんだ時期があったことに驚くが、ロシアの作家ドストエフスキーは、苦しむこともまた才能の一つである、と言っている。

コメント (23)
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