デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズ・ピクチャーズを鑑賞してみよう

2010-11-14 07:55:28 | Weblog
 フランス古典主義の中でも特に重要な画家のひとりジョルジュ・ド・ラ・トゥールは、夜の場面を描いた作品が多く「夜の画家」と呼ばれた。なかでもカードゲームに溺れるといつかは騙されることを訴えている作品として解釈される「いかさま師」は、17世紀前半の作とはいえ遊興の罠は現代にも通じる。視線の描き方は心理を巧みに写したもので、中央の横目の女性はマドレーヌ・シャプサル著の「嫉妬する女たち」の表紙を飾っていた。
 
 この絵と同じような構図を持ったアルバムにリタ・ライスの「ジャズ・ピクチャーズ」がある。ライスを横目で見つめるケニー・クラークと、二人の会話を覗き込むライスの夫君ピム・ヤコブス、その様子を窺うピムの弟、ルウト・ヤコブス、そしてカメラ目線のギタリスト、ウイム・オーヴァハーウ、1枚の写真からはラ・トゥールの絵とは違う楽しげなセッションが聴こえてきそうだ。61年にオランダのホールで開催されたコンサートはファッツ・ウォーラーの名唱で知られる「手紙でも書こう」で幕を開け、「枯葉」、「チェロキー」、「スピーク・ロウ」、「ホワッツ・ニュー」等、スタンダードのオン・パレードで、原曲の持ち味を生かしたストレートな歌唱が聴ける。

 オランダは多くの歌姫を輩出しているが、リタ・ライスはヨーロッパのファースト・レディ・オヴ・ジャズと呼ばれるだけあり、抜群のスイング感とジャズ・センスはヨーロッパばかりかアメリカでも高い評価を受けた人だ。56年にアメリカを訪れたときにバードランドに出演し、その名は一夜にしてアメリカ・ジャズ界に轟き、ジャズ・メッセンジャーズと録音を残している。そのアルバム・タイトルは「クール・ヴォイス」だが、ややハスキーな声とはいえクリス・コナーやジューン・クリスティの凛としたクールさではなく、曲によってはコケティッシュな一面ものぞかせる可愛らしい声と言ったほうがいいかもしれない。

 ピム・ヤコブスは「カム・フライ・ウィズ・ミー」の傑作で知られるピアニストで、ライスの歌伴も手馴れたものだが、クラシック音楽を伝統とするヨーロッパ気質からはみ出ることはなかった。それはそれで完成されたものだが、ヨーロッパ気質をブラッシュの一音でアメリカ気質のジャズにすり替えたケニー・クラークの客演がこのアルバムを上質な作品に仕立てている。ラ・トゥールのいかさま師はカードをすり替えようとしているが、このジャケット写真の中にいかさま師がいるとするならそれはケニー・クラークだろう。

コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする