デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

日曜日の夜に聴いたソー・イン・ラヴ

2010-11-21 07:55:51 | Weblog
 アラン・ドロン、アル・パチーノ、ダスティン・ホフマン、ブルース・ウィリス・・・さて共通するのは何だろう?先月亡くなられた声優界の大御所の一人、野沢那智さんが吹き替えを担当した俳優だ。「声優の前に俳優であれ」という信念に基づいた声の演技は、ときに字幕スーパーで映画を観るより迫力がある。ドロンやパチーノ自身の声は知らなくても、日曜洋画劇場で放映された多くの作品で野沢さんの声を思い出すかたもあろう。

 日曜洋画劇場は淀川長治さんの映画の面白さを伝える軽妙な解説で知られるが、次週予告の「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」に続いて流れるエンディング・テーマをご存知だろうか。数あるコール・ポーターの作品でも、おそらく日本人が最も多く聴いていると思われる「ソー・イン・ラヴ」だ。番組ではモートン・グールド楽団の曲を使用していたが、映画の余韻にいつまでも浸れるような哀愁を帯びたメロディは、曲名こそ知らなくても洋画をテレビで愉しんだ人の脳裏に焼きついており、ジャズファンと自認する小生でもエラ・フィッツジェラルドの名唱やアート・ペッパーの名演よりも先に思い出す。

 詞と曲が一体になった曲のせいかヴォーカルが圧倒的に多いが、インストも少ないながら粒よりの作品が揃っている。最も新しい録音といえば2010年のテッド・ローゼンタールで、植田典子の繊細なベースと、正確なビートを刻むクインシー・デイヴィスのドラムをバックに流麗なタッチで鍵盤を刻む。セロニアス・モンク・コンペティションで優勝した実力の持ち主で、ヘレン・メリルの歌伴を長らく務めただけあり歌心にも富んでいる。マンフレッド・クヌープによる録音の素晴らしさもあり叙情的な旋律が大きなスクリーンから飛び出すような錯覚さえ覚えるし、テンポを変化させ一気にクライマックスに持っていく劇的な演奏は一本の大作を観るようだ。

 中高生のころ日曜日の夜はテレビで洋画を観る楽しみと、もうひとつラジオでジャズ番組を聞く楽しみがあり、そのふたつが週明けからの活力になっていたのは確かだったし、そのラジオ番組で聞いたジャズは今でも活力になっている。「ミッドナイト・ジャズ・レポート」という日曜深夜番組のディスクジョッキーを担当していたのは成瀬麗子さんで、お姉様のハスキーな声にときめいた。憧れの女性、成瀬麗子さんの旦那様は野沢那智さんである。
コメント (22)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする